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【落武者魂】 Cascade1200km 第四話
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落武者魂

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Cascade1200km 第四話

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※三日目のプロフィール この右側にそびえ立つ峠。途中までその存在をすっかり忘れていた。気付いた時の衝撃……。

667km地点。オーバーナイトコントロールのクインシーに到着したということは、この1200kmブルベも半分を過ぎたということ。明後日も走らなくてはならないという現実が胃を重く感じさせるけど、とにかく半分だ。そして事前に考えていた予定時間ぴったしだ。ふう、着いた、とPCに指定された学校に入る。立派な建物だが、ここも体育館のようだ。しかしまあ、ナチェスもそうだったけど、単なる体育館にはとても見えない。複合スポーツ施設ですよこれは。なんでこんなに贅沢なもの作れるんだ? こんなド田舎に。箱物行政ってレベルじゃないぞ。これが世界最強最大の帝国の力か。恐ろしい……。米国債と言う名の上納金のことが頭をよぎる。

 入り口ホールに入ると、スタッフのひとりが自転車を置く場所を探してくれる。とはいえ、もう最後尾に近いのであまり空いている場所がない。結局一番奥に置くことになった。ホールへ取って返し、S&Sレンチを探す。果たしてそれはあった。急いで自転車の元へ戻り、継手を増し締めする。これで一安心。次はシャワーだ。ホールと、その奥とを行ったり来たりして、着替えをもってシャワーへ。やはり前日と同じようにポールにシャワー水栓がいくつもついたやつ。今回は二つ並んでいる。ウェアを脱いで、足首を見ると……。ああ、ぶよぶよっと腫れてる。ちょうどかかかととすねの間くらいのところ。アキレス腱滑液包炎だとか言われたやつ。それにアキレス腱がかかとに付着している部分が傷んでいる。時々すこし痛い。一日目はなんとかなってたんだけどなあ。どこまで持つかなあ、これ。そして、どこまで悪くなるのかな? ただ痛いだけならいいんだけど。気分は滅入るけどね。


※クインシーコントロール、朝の風景。左手に体育館があってそこが食堂。ホールに置いてある荷物はドロップバッグ。ドロップバッグは自分でトラックに乗せないとならないのだけど、KBと名乗る若い女性のボランティアスタッフが運んでくれた。小柄で可愛いアジア系の女性で、今回のカスケイドには僕らしかアジア人がいないからぜひとも完走してほしいと激励を受けた。ちなみに既婚者。 

 それから食事。途中、遅れていたマシュー君を見かけるが、まるで幽鬼のよう。とりあえず明日朝五時ごろ出るよ、と伝えて僕は食堂へ。食べ終えたらまたホールへ戻り、スタッフに寝たいと告げる。しかしスタッフの人たちはいったいいつ寝ているんだろう?
「仮眠所はちょっと離れてるんだよね」ということで、またスタッフのかたが案内してくれる。僕は寝袋をもってくっついていく。実際、とても離れていた。この建物の中ではないのだ。裏口から一旦、外へ出て(結構寒い)空き地を横切って隣の建物へ。そこは広いがガランとした暗い部屋になっていて、床にごろごろと参加者たちが寝ている。スタッフはうろうろと空いている床を探し、ここに、と指さした。僕がそこへ寝袋を広げていると、彼は枕元になるあたりに起床時間を書いたメモを貼り付けていった。今度は大丈夫だろうな。

 エアコンの機械が壊れていたとかで、一晩中ゴンゴンとうるさかったが眠りに落ちるのは一瞬のこと。しかし残念ながら、比較的早く目が覚めてしまった。一回目が覚めてしまったら、今回はちゃんと起こしてくれるだろうかと、なんとなく不安になってしまったのか二度寝ができない。とにかく黙ってめをつむって寝転がっているだけでも体力は回復しているはずだと信じて過ごす。起床時間より少し早めに部屋を出て(やっぱり寒い。寝袋をかぶって移動する)、食堂へ朝食を。そこにはI氏たちもいた。用意して……あれ? フロントタイヤにゴミ……じゃない。ざっくりサイドから1センチくらいに渡って切れ目が入ってる。うわあ……でも、チューブがはみでるような雰囲気もない。形状は保っているから、まだ走ることができるだろう。一応、こんなこともあろうかと別銘柄だけどスペアタイヤを持ってきている。これを使うことになるとは思えないけど、一応もってくか。バックパックになんとか括りつけることはできそうだ。これでまあ、一安心。そう思って外へ出る。さて、みんなと行くか。


※とりあえず、括りつけてみた。

 走りだしてすぐに……ちぎれた。ものすごい強風……。どうすればいいんだ、こんなの。
 そしてもう駄目なんじゃないか? この調子だと。


※この人達と走れたのは一瞬のことでした……。

 マシュー君が追い上げてきてくれて、一緒に走ってくれる。ありがたい。観音様のようだ。
 風はどんどん強まっていく。もはや台風並みと言っていいと思う。ところどころにある防風林が、人類の英知の結晶のように思われる。緩やかな丘陵がどこまでも続いている。雲は低く、うすぐらい。たぶん、ここはフランドル地方だ。あそこは風が強くこんな景色だと聞く。昨日はアンダルシアで、今日はフランドル。なんという贅沢なブルベだろう!
 さて、僕のバイクは前後共にディープリムホイールなのだけど、この強風でもそんなに怖くない。なぜだろうと思ったが、みっつほど理由を思いついた。ひとつはENVEのリムはかなり横風耐性が高いということ。でも他のディープリムリム・ホイールをたくさん知っているわけじゃないけど。それから、急な突風があまりないということ。日本の道で風が怖いのは、建物や地形が引き起こす突風だ。急な横風。あまり遮るもののないここでは、その心配をしなくていい。ただひたすら風が強いだけだから。そして交通量。早朝の農地を行く道なんか、通る車は少ない。だから多少、風でフラついても怖くない。そもそも速度でてないし。
 というか、と考える。
 そもそもディープリム・ホイールでも、本当に怖いのは下り坂で斜め前から突風を食らうようなシチュエーションだけだろう。
 こんな平坦で風が定量の場所では、それほど問題にはならない。
 そんなわかりきったことをひたすら考えていたら、ようやく交差点。そしてより風が強い方向へ針路は変わる。
 もう泣きそうだ。立ち止まってレインジャケットをかぶる。風が強すぎて体温が奪われるから。
 ゆるい上りを、小さな市街地へ向けて走る。このど田舎ではちょっとした都会に違いない。


 
 古い映画館。
 寂れたモーテル。
 中古車ヤード。
 うらぶれた家具店。



 ああ、その先は絶望的なまでに荒野。
 この町に入るころには雨も降ってきた。全身雨装備に戻り(毎日毎日……飽きもせずよく降ってくれる……)空気抵抗を増やして走る。走るというか、なんというか。へろへろ。しびれを切らしたマシュー君は先に行ってしまった。ついに一人。たったひとりこの荒野に……。もう思考回路を閉鎖して、ネガティブなことを考えないようにする。ポジティブなことも考えない。ただ、ひたすら走る。ああ、これだ。これだよ。よし、気合を入れよう。敗走開始。


※この写真では左から右へ風が吹いています。風の向きも進行方向も何十キロも変わらないのでほんと辛い。でも、今となってはどのくらい辛いか忘れた。


※写真を撮ってもらうために風上を向いたらヘルメットがずれた。まるでヅラのようだ。バックパックからはみ出しかけているのはウィダーインゼリー。結構救われた。

 ちょうど自転車の一団がやってきた。これ幸いと、後ろにつかせてもらう。女性もいるグループだからか、なんとかくらい付いていけそうだ。道は渓谷に入っていく。広い谷間だ。ええと、伊那谷くらいかな? 相変わらず比較対象物がないのでその大きさが実感できない。この地形のせいで風はよりひどくなってくる。先頭を行くのはツーリング車に乗る年配で恰幅のいい男性だけど、なんという力強さ。とてもあのレベルに自分が到達できるとは思えない。おそらくこの一団の中心はカナダの人たち。ブリティッシュコロンビアのクラブっぽい。一回二回、前の方へ出たけど、馬力が違いすぎる。黙って後ろに食らいつくのが得策と判断して下がる。
 渓谷の先はスプーンのように広がっているようだった。そしてその縁を削るようにして上へ上る道が続いている。そこら辺で風が巻いて、ものすごい横風。たとえ前のサイクリストまで10cmまでつけても何の恩恵も受けれないほど。後ろに居たサイクリストが、へばっている僕を見かねて「ドラフティングに入れ!」と真横を走ってくれる。ありがたいが、残念なことに登り坂になってはぐれてしまった。

 登り切ったところにあるビジターセンターが今日、はじめてのPC。東屋にお菓子がいくらかと水が置かれているだけ。そういえば、ここはクイズコントロールだったけど、ブルベシートに書いた記憶が無い(w 大丈夫なのか。まあ、いいや。


※Dry falls ああ、大きさ感がわからない。マイルドセブンを置いておくべきだった。

 ドライフォールズ。高さ・幅共にナイアガラの滝をはるかに上回る規模だという古代の滝の痕跡。だというのに、比較対象物がないのでやっぱり大きさがピンと来ない。彼我の距離感もつかめない。なんでもかんでもデカすぎ&広すぎ。なんか、よくアメリカの自然を見る番組なんかでタレントが「実際来るとその巨大さに感動しますね!」とかいうけど、本当だろうか。僕にはただの背景のようにすら感じられてしまう。感受性が貧困だから? 感動に慣れてしまっているから? 



 ワシントン高地では氷河期の終わりに、巨大な古代湖が決壊。高さ120メートルという莫大な水の流れが一瞬にして、ここらの地形を作り上げたんだとか。ドライフォールズも、さっき走ってきた渓谷も、その時の名残。ついでに言えば、ワシントン州内陸のこの高地全てはその濁流に洗い流された後の地。そういう洪水の記憶がノアの方舟のような話になったという人も居ますが……まあ、浪漫のある話ではある。でも、ロマンでは人の腹は満たされない。クッキーとポテトチップス……。正直なところ、もうすこしなんかまともなものが食えると思っていた。たとえばサンドウィッチくらいはあるんじゃないかって。70km無補給で走ってきてこれかよ……。まあ、いい。次のPCまで50km。雨も上がったし、なにか食えそうなものがある場所があれば、立ち寄ろう。



 長い下り坂……なのに20km/hが出せない……ギギギギギ。そして登り返してわかった。
 食い物なんてどこにもない。
 水なんてドコにもない。
 そうかクインシーのオーバーナイトコントロールから120km、まともな補給なんてなかったんだ。
 なるほど、前回の参加者たちがこの区間で(注:ここらのコースは変更されている)熱中症でバタバタ倒れたはずだ。



 ただっぴろいだけ空間を向かい風をかき分けて進む。
 そういえば、晴れてきてる。雲が切れて青い空が広がった。それはいいんだけど……そうすると暑いのよね。
 I氏やマシュー君も一緒になっていたので、多少は心強い。しかしまあ、地平線のかなたまでアップダウンが繰り返されているのを見るとちょっとキツイ。キツイけど、そう感じないように心を閉鎖している。もう何も考えない。ただ、今の苦境を凌ぐことだけ。こげ、こげ。足を止めなければ進んでいられる。進んでいれば、次のPCへ近づく。次のPCにたどり着けば、少し休んでいいぞ、俺。


※この岩、超でかい。でもわかんないよね。さっきの写真のトレーラーと道路の比率と比べてみてください。

 広大な平原に、巨大な岩石が点在する。これまたスケール感がないけど、たぶん三階建ての家くらいはでかい。これは一体何だ? なんかの巨石信仰? とか思っていたのだけど、これまた氷河期最後の大洪水が運んできたものだと判明。ほえー。

 ほえー。

 ほええぇ

 ぇええぇええぇ。

 つかりた。

 もういい加減向かい風はヤメロ。この強い日差しもヤメロ。地平線まで繰り返すアップダウンももうイラン。

 早く終わりたい。

つづく
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コメント

* なんだか

「麦と兵隊」を思い出してしまいます(;´Д`)
2012/07/20 【ささき】 URL #u/hKjTvU [編集] 

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