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【落武者魂】 Cascade1200km 第惨話
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落武者魂

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Cascade1200km 第惨話

 しかし、なんというか。
 このコースは本当に登ってるか下ってるしか無いんだな。
 実はカスケイドについて、あまりよく知らずにエントリーしたのだった。とにかく山脈を超えるというのと、それなりの獲得標高があるというので、平坦-でっかい山-平坦-でっかい山……みたいなのを想像していた。PBPがひたすら小さいアップダウンの繰り返し、北海道が平坦基調、その前のGRRは平坦-とにかく山登り&下り-平坦、というのがこれまで経験してきた1200。今回はまた新しいタイプ。PBPのアップダウンの合間に1000~1700メートルという山が挟まっているようなコースだ。一日一回はでかい山を登らされるようにできている。まあ、色んなコースがあるもんだなあ、と感心してしまう。
 それにしても、どの1200kmも同じように感じることがある。



 とにかく退屈。ひたすら退屈なのだ。

 これはもう、絶対に中盤くらいに重くのしかかってくる。すごい脚力があって最初から最後まで攻めこんでいけるような精神力があれば、退屈なんか感じないんだろう。でも、僕みたいにとりあえず走りきれるっぽいけど、遅いというタイプだと走る時間は長くなるし、あまり追い込むこともできないし、それでどんどん退屈度が高まってくるのだ。
 これは毎回いうのだけど、どんなに言葉を尽くしても、写真を載せ説明したところでこの退屈さを理解してもらうことはできないだろう。本当に悔しい。それこそが、この距離を走り続けるということの中核となる苦しみなのに。退屈を文章として記すことはできない。その時間分だけ空行で改行し、しかもその行を飛ばすこと無く読んでもらえることができるなら、この苦しみもわかってもらえるかもしれない。

 いつものように退屈について考え、退屈、というか時間そのものをどうやって表現できるのかとか悩んでいると、ようやっとひとつの荒涼とした丘を登り終えた。そこから先、いきなり時速45kmほどを軽々キープして一気に距離が進んでいく。ものすごい追い風だ。この午前中には壁のように僕らを押し留めていた風が、ようやく味方となった。しかし、ときに登りなんかで微妙な違和感を感じることがあった。なんかすごく嫌な予感。フレームが柔い? なんか……そういえば……俺、この自転車組み立てた跡でS&S継手の増し締めをしようとして、したっけ?トップチューブは締めた記憶があるけど……。走りながらダウンチューブの継手当たりを握ってみるけど、特におかしいことはない。が……。とりあえずキューシート上でレストエリアとなっているところまでは行ってみよう。そこで確認しよう。
 他にもS&S継手を使ったデモンタブルの参加者はいるから、継手を増し締めするレンチを持っているかもしれない。


※この右側がハンフォード・サイト。カメラを向けると電子素子がやられる(ウソ)。

 追い風ゾーンは突き当りになって終わった。突き当りの先にも道は続いているのだけど、そこは厳重なゲートになっている。カスケイド1200のルートはそこで左折し、フェンスが続くその脇を北上していく。もう追い風の恩恵を受けることはない。これから先ずっと。いや、むしろ……。と、脳内コース図をトレースしながら嫌な予感を描いていると、マシュー君がやってきて右手のフェンスの向こうを指さし、放射性廃棄物で汚染されたエリアだと教えてくれる。他のサイクリストも同じような話をしてくれた。
 ここはハンフォード・サイト。かつて原爆を製造するためにプルトニウムを生産する原発が集中して立地していた。ここでの生産が終わり、原発は停止したが、廃棄物によって高濃度に汚染された大地が残った。埋められた大量の放射性廃棄物からから漏れだした汚染廃液がコロンビア川へ流れ出ている(可能性がある)ということで問題になっている。それから数十年、ここではいわゆる除染の研究、実作業が続いているものの、進捗は遅れに遅れていて、いつになったら終わるかもわからない、そんな土地だそうだ(Wikipedia調べ)。
 もっとも、見渡す限りではフェンスの先には何も見えない。地平線の先まで続く荒野だ。その恐ろしく広大な土地が立入禁止エリアになっている。まあ、もっとも、こんな場所はそもそも立ち入る人もいなかったろうけど。



 さて、視線の先にコロンビア川が削った渓谷が見える。両岸ともにつきたった壁のようだ。その壁をえぐるように敷設された道路を一気に下る。途中で路肩にしゃがみこんでパンク修理をしていたオレゴン・ランドナーの代表が「ガラスが散らばってる! 」と叫ぶ。たしかに路肩にはおそらくビール瓶由来と思われるガラスの破片が散っていた。一日目は雨で、そして今日はこういうガラス片でのパンクが多いようだ。せっかく広い路肩があるのに、こうやって車窓から投げ捨てられたビール瓶のおかげで車道に割って入らざるをえない。それでも気持よく下りきり、コロンビア川を渡る鉄橋の前に小さな緑あふれるオアシスがあった。そこがレストストップ。トイレや自販機、水飲み場がある。この日は気温も上がって、なおかつ乾燥していたので、水もなくなったころ。ちょっと休憩することにする。
 僕は懸案だったダウンチューブ側の継手を手で……少し力を入れたら緩んでしまった。背筋がゾクリとする。とりあえず、渾身の力で締め付ける。が、所詮は僕の手の力だ……。トイレに立てかけている自転車を見ていたらS&S継手を使った自転車があった。これは誰の? と聞いて回ると、マシュー君があそこにいるジェームズだよ、と白い髭のおじいさんを指さす。彼のところに言って「すみません。S&Sのレンチはありませんか?」 と訊くと「いやあ、もってないよ」
「ドロップバッグには?」
「いや、持ってきてない。困っているようだな。うーん、他にS&S継手を使った自転車に乗っているこういう名前のやつがいるから、オーバーナイトコントロールで探して聞いてみるといい」
「ありがとうございます」
 しかたないので、もう一度両手で渾身の力で増し締めして行く事にする。
 簡単に外れることはないとは思うけど、危険な状態ではある。もし今日のオーバーナイトコントロールで増し締めができなければ、これ以上の走行は諦めたほうがいいかも……まてよ、ドロップバッグ? 僕自身のドロップバッグはどうなんだ? 考えてみれば工具を入れた袋を脇のポケットに入れたはず。レンチを入れたという明確な記憶はないけど、あそこに入れずにどこにいれるというのか。きっと……あるはず。今はそう信じよう。



 鉄橋を渡ったところでマシュー君が言う。
「この先に最低で15%の登り坂がある。僕は押して登るから、君は先に行っててくれ」
 リカンベントではちょっときついのだろう。なにしろ彼は(骨折後のくせに僕より速いけど)リカンベント初心者なのだ。いままだ乗ったのは二回だか三回。最長距離は平坦の200kmだけ。歩いて登るのもやむをえまい。僕もS&S継手の不安があるので、立ち漕ぎは避けて……登れるような坂ではなかった。20%近い避けようのない坂。しかも……もうほんと嫌になるのだけど……広めの二車線道路全面に「かまどうま」がびっしり。カマドウマとバッタのあいのこ? こっちの人はクリッパーだとか言ってた。とにかく気持ちの悪い、しかも大きな虫だ。生きてるクリッパー、クルマに轢かれて潰されたクリッパー、それらが無数に路上にいる。なんだこれは。あれか。墨子の罠か。この虫で緑の大地を食い荒らしたのか。きっとそうに違いない。しかしなんでこの坂にだけびっしりいるんだよ……。まあ、ほとんど速度が出ないから、踏み潰さずよけることができる(できたと思いたい)のが幸いか。


※無数のカマドウマに占拠されたクリッパー峠。あまりのキモさに地面を撮影できませんでした。

 ちょっと気持ち悪くなりながらクリッパー坂を登り切ると、路肩でI氏が寝転んでいた。なにしてるんですか、と訊くとマシュー君もしばらくこないだろうから、休んでいるという。まあ、それもいいかもしれない。僕もS&Sの緩みを確認して(大丈夫そうだ)、それから体育座りして目をつむった。もっともあまり時をおかず、リカンベントに乗ったマシュー君はやってきたのだけど。



 マタワまでは再び向かい風と戦うことになる。I氏も言葉や口調は元気そのもの、普段と変わりないが話す内容やバイクの挙動なんかに疲労の色を感じる。日も落ちてきて空がすみれ色に染まっていく。数十キロ景色が変わらないことにはもう慣れてきた。ひたすら一直線に丘陵をつらぬく道路を走り続け、マタワのPC。
 マタワマタワマタワー、いつまでもマーターワ、と歌うが誰も反応してくれない。
 テントが設営してある。スタッフにブルベカードを渡してサインをもらう。そのときに、彼が持っていた名簿をちらりと見る。ほとんどは埋まっている。みんな速いなあ………。さて、あと70km弱だ。走る前まで初日が一番長距離と思っていたけど、実は二日目が最長距離。それも気を滅入らせているけど、今日が一番”登らない”日、というのも滅入らせている別の要因。一番登らない日でこんなにくたびれているのか僕は。そして一番滅入るのは、明日も明後日も走らなくては行けないという事実。ファクト。うんざり。自転車乗るのキライ。



 風向きは北からのものに変わっている。マシュー君のリカンベントにくっついて、少しでも風をしのぐ。
 午後九時。日はほとんど沈み、残り50キロ。残念なことにずっと登りだ。
 川面に映るわずかな残り陽を見ていると、なんだか視界を大粒の雪のようなものが覆い始める。ってなんだ、これ? 灰? いや、ちがうな……。
 蛾だ。
 無数の小さい蛾が雪のように乱舞している。それらが北風にのって僕らの体といい顔といい、すべての場所にぶつかってくるのだ。これはひどい。口を開けていると、その小さな蛾がバタバタ突っ込んでくる。首に巻いていたウォーマーで口を覆うようにして走る。マシュー君は途中でうんざりしたのか停止して、体にくっついた蛾を払う。なんなんだ、これは。やはり墨子の罠としか思えない。もうどうにでもしてくれ……。



 鉄塔のあるキツ目の坂を上がる。夜の闇。I氏と僕、そしてリカンベント二台で走り続ける。ああ、何時間眠ることができるんだろう? また明日も走らなけりゃならないんだよな……。 すっ飛んでいくパトカー。どこまでも一直線に続く道。おっかけてくる放し飼いの犬。このたった65kmの区間に4時間半もの時間を費やしてしまった。たぶん、食べる量が足りてないのも一因なのだろう。特に一日の後半になると、胃腸が弱いので食欲がなくなってくる。それで食べなくなり水も飲まなくなる。これがよくない。よくないのはわかっているのだけど……。



 ようやくクインシーのPCにたどり着いたのは午前一時。さっさと食べて、眠らないと。ああ、まずはS&S継手を締める工具を探さないとな……。それに足首もやばい感じがしている。もし工具がなければ、心が折れるかもしれない。

つづく
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コメント

*

探してた工具ってたぶんフックスパナの類だと思うのですがこの手の締め付け系は棒とタイヤのチューブとマクガイバー力があればかなりの高トルクで締める事ができます。今度実演して見せます。覚えておくと便利だと思います。
2012/07/18 【】 URL #- 

*

チューブで巻いて、棒でぐるぐる縛って、ぎゅうぎゅうにしてからふんぬ!って回せばいいんですね? 考えろ、考えるんだ力が足りませんでした!
2012/07/18 【さとう】 URL #- 

*

落武者っぽくなってきてイイネ、イイネ!
2012/07/18 【たけ】 URL #- 

*

1枚目の写真きれいですね。それでも、ずーっとそれだけだと辛いですね。さすが、アメリカは違うなー。でかすぎる。
2012/07/25 【たなか】 URL #SJMMuUIM [編集] 

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