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【落武者魂】 GRR1200km 夜行列車の巻
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落武者魂

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GRR1200km 夜行列車の巻

「脚力とかが強いことが大事なんじゃないんだ。精神力だ。精神力の強さが大事なんだよ」-ピーター・リー

 100人程が公園の駐車場から出て通りに揃う。一応、道路に青い線が引いてありそれがスタートライン。せっかくだからということか、ピーターとアンダーソン、ジョーンズ(全員アジア系)が近くに並ぶ。通りがかるクルマが「なんだなんだ」と行った雰囲気でゆっくりと通り過ぎる。道路封鎖も無し。大量の自転車で勝手に一車線封鎖状態。でも通りがかるクルマは誰もクラクションなど鳴らさない。不思議な顔をしてみているけど。

 しかしある意味国際規格の大イベントなのに、溢れる手作り感がなんともおもしろい。ダンが何やら合図して”なんとなく”スタート。CP2 Orovilleまで160kmほどは完全にフラット。しかも基本的には追い風。素晴らしい勢いでトレインが進んでいく。もちろん1000km以上の長丁場ということもあり、誰も息があがるような走りはしていない。皆、自己紹介しあったり、旧交を温め合ったりしながらどこかサイクリング気分の高速トレイン。いやはや楽しくってしょうがない。

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 道がフラットなら景色もまた平坦。大きな区分の水田や畑が左右に広がり、ときおり懐かしい夏の草木の匂い、そして水田の匂いが流れてくる。路面が金網の跳上橋を渡る。これ、雨のときはどうするんだろう。コースはその平坦な景色の中を右へ左へ直角に曲がるのみで、これまた単調と言えば単調。なんだか昔のF1にあったどこかの市街地コースのようだ。やがて夕日が地平線へ向かって沈んでいくけど、遮るものが少ないのでなかなか暗くならない。とはいえ、まずは一回目の日没。途中にチェックをしないウォーターポイントと二つのシークレットCPがあって、だんだんと集団が壊されていくものの、なんとか10人くらいになったおそらくは中盤のグループにひっついて走る。このグループの先頭はライトスピードのタンデムを駆る夫婦。先頭交代などまったくしなかったので、最終的には後続のもっと大きな列車に吸収されてしまった。やはり戦いは数だな。

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 CP2 Orovilleには23時半ごろに到着。ここのCPは街のスポーツジムを借りて設営されているらしく、ヨガルーム(といってもかなり広い)に大量の補給物資や、仮眠用マットなどが準備されていた。さすがにまだ眠る人はいないようだけど。がやがやとした雰囲気で、ちょっとペースが速かったんじゃねえか、といった話題なんかが聞こえてくる。160kmを5時間半だから、確かに数字上はハイペースだけど、追い風と列車効果を考えるとこんなものかもしれない。予定時間よりは数時間早く到着しているものの、6時間程度で走れる可能性は考えていたし、ここから先はずっと登りなので帳尻が合うだろうとも思っていた。


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 ピーターに「調子はどうだい?」と言われ「まだ楽しいね。でも『なんでこんなライドに参加したんだろう』とか考えていたよ」と答えたら「そういうことは考えちゃ駄目だ」とたしなめられる。たどたどしすぎる英語でしか話せない人間がくだらない冗談を言ってるとは思えないのだろう、真面目に心配して真面目に答えてくれている。自分の英語力を棚に上げてしまうけど、総じてアメリカ人には自虐的な冗談は通じにくいような気がする。いや、単に心配してくれちゃうんだな、嬉しいことに。

 そんなに長居した気はなかったのだけど、いつのまにか人影が少なくなってきている。ちょっと急いでCPをでるがまだまだ後続がぱらぱらと入ってきていてすれ違った。Orovilleからは文明を脱してJarbo Gapという長い峠へ向かって登っていくのだけど、街を抜けてしばらくはフリーウェイ沿いの田舎道をゆるやかに上り下りする。やがて幹線道路を離れ一直線の登りに。すでに日付も変わり、まっくらな中にぽつぽつと赤いLEDの灯火が続いている。追い抜かれることはほとんどないが、追い抜くことはもっと少ない。でもそれでいい。とにかく完走しなければ。サンディエゴ1000kmで確立した「脱力走行」を徹底して走る。どこまでも力を抜いた脚はまるでマリオネットのような力の入ってなさ。どこの筋肉にも力が入っておらず、ただカラカラとペダルが回るにまかせて回す。直前にサドル高さを低く変えていたせいでちょっと膝頭があがりすぎかなとも思っていたのだけど、そういう違和感はすっかり消えてなくなり、うまいこと「脱力」に成功しているようだ。

 Jarbo Gapの頂上手前でPCH Randosのリンダと合流。日系人の彼女は去年秋の200kmや春のダブルセンチュリーなんかで所々一緒に走った。彼女の夫も自転車に乗るのだけど、ロングライドは嫌いだそうで単独参加だ。GPSに頂上が表示されたので「あれがてっぺんだ」と言うと「そうみたいね」と言ってくれる。300km付近まで大体は彼女に先行する形で視認距離を走り続けたのだけど、CP4のTayrorsvilleで先に行かれて以降、その姿を見ることはなかった。結局、リンダは72時間ほどでゴールすることになる。一定のペースで走り続けられるって言うのは強いなあ。

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左)トンネル。照明があったのはここだけ。どれも短い。 右)Tobin Resort

 Jarbo Gap(別名Yankee Hill)を下った先は100milesほどの登り。しばらくは大きな渓谷の中を走り続け、Tobin Resortという渓谷沿いのCPへ到着。すでに午前3時。CPになっている丸木小屋風の食堂でしばし休憩。だいたい200kmを越えたあたりということで一段落なのか、けっこうにぎわっており、ソファなんかでちょっと仮眠をとっている参加者もいる。用意されている料理をいくらか腹に収めてスタッフに出発を告げる。GRRではCPへの到着と出発をそれぞれ記録していて、スタッフにそれを告げないとならない。記録としては、後から見て「この人はここでこれだけ休んだんだな」というのもわかって面白い。

 Tobin resortを出ても登りつづけなのだけど、斜度は3%ほどしかないし追い風が続いているので全然苦ではない。ただ夜を徹して走るのは久しぶりなので、それはちょっと不安だけど、不安だからといってどうすることもできない。そしてちょっと寒い。高度も1000mに達しようとしていてただでさえ気温は下がっているはず。特にこの払暁には気温がぐっと冷え込む。早く陽が登ってくれと思うが、夜空は茜色になりつつも深い渓谷のために朝日は差し込んでこない。耐えるしかない。寒いのは嫌いなんだよな。

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 すっかり明るくなった頃、GPSに「坂終了」という文字が。GPSには主立った峠のピークの位置を推定で入力してある。これは精神的に助けになるのだ。ここでは「終了」と言っても、ピークというより山間の小さな湖のある盆地に到着しただけ。盆地の端をめぐるようにしてGreenvilleの Info Controlへ。Greenvilleは小さいながらも街の体をなしたところ。ここにある金物屋の店名がInfo controlのクイズになっている。そこには数人の参加者が居合わせていて、朝の挨拶を交わす。誰かが「このクイズはGoogle viewでもわかるな!」と冗談を言っている。年配のサイクリストは店の前に腰掛けてしばらく休むと言っているが、ここから1時間もかからず TaylorsvilleのCPのはず。そこではゆっくりと休めるはずだ。

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 8時前にTaylorsville着。町というようなものではない。体育館か公民館のような建物がCPになっていた。ちょっとした厨房があり、そこで温かい食べ物を注文できる。人気はオムレツのようだったけど、僕はパンケーキを頼んだ。ホールの中央には16人くらいがかけられるテーブル席があつらえてあり、夜を徹して来たブルベライダーたちが食事を摂っている。壁際にはドロップバッグが置かれていて、僕は長袖RUSAジャージと薄手の長袖インナーを着込んだ。かなり冷え込んでいるな0度に近いぞ、という話題が聞こえる。ほんとうにそうだ。陽が出て来ているのに寒くてしょうがない。


 さて、Davisの600kmブルベはここが折り返しなのだそうだ。参考にしたレポートによれば、帰りはずっと向かい風に悩まされるらしい。そんな馬鹿な。ずっと南風が吹き付けているということになるが、そうすると南に空気は無くなってしまいじゃないか。そんなことはありえないので、かならず気流が逆転するときがあると信じることにする。そしてそのタイミングで帰路を走ればいいのだ。

 Taylorsvilleからは50milesほどがGRR最高地点を越える峠だ。ここから斜度もぐんとあがりまともな峠になる。斜度とともにようやく気温もあがり、自転車をとめてさっき着込んだウェアを脱ぐ。「おい、エルクがいたぜ!見たかい?」と声をかけられるが残念ながら見ていない。日光が奇麗にまばらな林や緑の地面、流れる小川を照らし出していて本当に美しい。人為的なものかどうかわからないが、山火事があったようで木々の下の方はこげて黒ずんでいる。そういった山火事もまた自然の維持循環の一つの要因になっているというのが、このあたりの自然保護の考え方なのだ。

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 Antelope Lakeへ到着。ダム湖だけど、人工的な感じのしない奇麗なところだ。ここからGRR最高地点付近はなんとも風光明媚なところで、なんとも心地よい。やたら広大で大自然の巨大さに畏怖されることも無い。これくらいがちょうどいいのだ。地平線の彼方まで人間の営みが見えないときの、あの何とも言えない不安のようななにかは、精神的に堪える。湖を回り込んでCPへ到着し、スタッフにトイレの場所を聞くが、けっこう離れているキャンプサイトに行かなくてはならないらしい。それでは仕方が無い。あきらめてわずかな休憩で前進することにする。GRRのCPは大きく二つに分かれていて、屋根のあるフル規格のCPと、キャンピングカーやトレーラーなどで物資を運んで来てテント設営されているここのような簡易CPがある。簡易CPの方ではトイレは無いので要注意だ。基本的には「薮があるじゃん」という話なのだけど「でっかいのを」と言うと「うーん、紙はあるぜ」となる。トイレットペーパーを持って走っている人もいるので、そういう覚悟も必要なのだろう。

 Antelope Lake(後にAntelope Passも出てくるけど、まったく別の場所)を出立してしばし燦々と照りつける日光の中を登り続ける。すでに高度は2000mに近づいていて、空気そのものは暑く無いとはいえ絶え間ない太陽光と斜度のある登りのせいで汗が落ちる。それでもある程度登りきり、一段落だなと思ったところで後ろからマイクで何か叫ばれる。パトカーかな、と思ったがSAG(サポートアンドギア。つまりオフィシャルのサポートカー)が「ここがGRR最高地点だぜ!」って叫びながら追い抜いていくところだった。すばらしいタイミング。この名もなき山頂をすぎてもアップダウンは続く。最終的に急な下りになるのだが、そこは帰路の焦点となる場所だ。Janesville gradeと呼ばれている。8kmほどで700mほどを一気に下り抜けJanesvilleの集落へ。ここでようやく携帯の電波が入った。ぎりぎりアンテナが立つ程度だけども。さて、現在時刻は14時すぎ。大きなCPであり宿泊の予約もとっているSusanvilleへはここから1時間程度で到着するだろう。しかし、そうするともともとの予定到着時間だった17時?19時からはあまりに早まりすぎている。細君は補給物資を持って来てくれているわけだけど、こんなに早く到着するとは思っていなかったからそれが不安であった。もし、彼女がまだまだ到着しないのであればAdinまで一気に行くか?ちょっと防寒に難がありそうだけど、逆に日没までに距離を稼げる。しかし、正直眠くってポテンシャルの低下が激しい。

 結局、なんとか連絡が取れて、僕がSusanvilleへ到着するまでには彼女は到着できるらしいと判明。到着次第、先にモーテルへチェックインしてくれるとのこと。ありがたい。

 それは解決したとしてもうひとつ考えるべき問題は、この時間に到着して仮眠をとると貴重な日中の時間が無為に費やされてしまうのではないかということ。主催者はSusanvilleではなく、その100km先のAdinでの休息を推奨している。100kmということはだいたい5?6時間だろう。午後9時ごろにAdinに到着し、数時間休んでDavis creekへ向けて再出発する。これがベストなのだろう。でも、さすがに睡魔の影響もあって目の前にベッドとシャワー、着替えが用意されていると知りながらそれを素通りするのも難しい。トイレへも激しくいきたかったし。うん、実はトイレに行きたい。

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 というわけで15時過ぎにSusanvilleのCP手前にあるBest Western INNへ落着。JanesvilleからSusanvilleまでのセクションではたまった疲労のせいかあるいは眠気のせいかペースもガタ落ちだったものの、これでようやく一段落。400kmを21時間ということで、悪くは無いペース。特に体に不調は無く深刻な疲れも無い。モーテルではシャワーや着替えなどを済ませ90分程寝ることに。トイレの勢いだけが不安を感じさせたものの、ここまではあっさりとしたブルベだ。まあ、400kmとはいえまだ1/3。ここで問題が出ていたらその方がやっかいなのだけど。

つづく
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