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【落武者魂】 2014年11月07日
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落武者魂

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PAP1200 第三日 ウィリアムズまで 約320km

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 オールバニの次のコントロールは「クラレンス山の記念碑」なるところ。参加者のしおりにはオープン-クローズの時刻が記されていたので、数キロしかないうえに頂上PCなのに? と思っていた。オールバニをぎりぎりで出たら確実にタイムアウトじゃん、と。実際には通過チェックのみ。ただ・・・平均斜度が10%以上で、最後の数百メートルは20%を超える(と後から聞いた)。その最後のセクションは舗装の色も変わっていたので躊躇無く自転車を飛び降り、押して歩いた。ここで脚を使うわけにはいかないのだ。

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 この記念碑はANZACのためのもの。ANZACとはオーストラリア・ニュージーランド連合部隊。第一次世界大戦に大英帝国の同盟国として欧州の戦線に送り込まれる連合部隊は、ここオールバニの泊地で集結して西へ向かったそうだ。当時のオールバニは西オーストラリア最大の港だったのだという。記念碑の上には助け合う両国の騎兵像があるそうだけど、真っ暗で何も見えなかった。
 しかしなんというか、このPCはここから朝日を見るためのものなのだろうけど、よほど遅れているか、脚が強さにまかせてゆったりスタートするかしないとただの暗いPC……。光のトンネルのごとく設置された街灯などがあって奇麗なところもあったけど。

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 日が昇ると暑くなってくる。スターリングランチ国立公園のPCは当初と場所が変わったとのことで迷う。キャンプ場に設置予定が、その数キロ先の道ばたの駐車場になっていた。トイレも日陰も無い。薮に入って用を足そうとするといきなり無数のハエとアブ?のお出迎え。超コワイ・・・。
 とはいえ、道中ではハエもカンガルーの死体も心配したようなことはなかった。初日の夜だけだったな、カンガルーの死体がごろってたのは。ハエもほとんどいないと言っていいだろう。去年に比べれば天国だ。シドニーメルボルンはトラウマ級だよ・・・。

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  次のPCまではずっと北風に悩まされる。ほとんど遮る樹木も無いので吹きさらしだ。そして路面は荒く手の痺れがきつい。足の親指がペンチでつぶされるように痛みだしたのもこのあたりだ。この痛みは久々だが、キツい。伊勢1000での手の痺れは収まって来たようで、やっぱ収まらない。こんなことしてちゃ当たり前だけど。先週からの風邪はこの日はほとんど咳き込むことは無かった。

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 Gnowangerup(ノワンギャラップ? 読めんw)のコントロールでお昼ご飯。西部劇にでてくるようなド田舎の街。スポーツ公園の建物でボランティアの方々が作った食事をとれる。ホールのはじっこでゴロゴロしてたい衝動に教われるが、それをふりきって出発。次はカタニングか。向かい風は相変わらずで、景色も相変わらず。鉄道の路線が加わったくらいか。一回の走っている列車は見なかったけど。途中に小さな停車場と町があった。だいたいこういう田舎町は人の気配が無いのだけど、その小さな町ではコースの脇に自動車のテールゲートに腰掛けた家族が手を振ってくれていた。なんか嬉しい。ただ、参加者もまばらに走っているから、よほど退屈なんじゃないかと思うけど。

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※PBPのオフィシャルのオートバイはロード系だけど、PAPではアメリカン系。

 ロードトレインについても記しておこう。オーストラリアでは鉄道の敷設がされていない地域が広くあり、そこではロードトレインというトラック輸送が行われている。簡単に言えば「列車のように荷台車を連ねたトラック」。ひどいところだと全長100m超におよぶこともあるらしい。PAPの間によく見かけたのは荷台車を2〜3台連ねたタイプ。3台ともなると吸引力はダイソンを上回るのでかなり危ない。
 牽引するトラックもかなり厳しいらしく、遠くから独特の加給音(スーパーチャージャーだと思う)が聞こえてくるので身構えることは出来る。オーストラリアの郊外の道路は対向二車線でも制限速度は110km/hだったりするので結構怖い。

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 カタニングは寂れた都会。都会といってもビルがあるわけではないけど。
 PCは公民館の前におかれた机と食事のつまれたテーブル。休んでけ休んでけ、コーラはいるか? サンドウィッチはどうだ? とかやたら親切にされる。なお、このイベント中、唯一のコーラをここで飲んだ。さらに付け加えると、このイベント中、現金は一切使わなかった。クレジットカードも。すべてPCで提供されるものでまかなえる。超オトク。

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 残るPCはふたつ。ワギンとウィリアムズ。どちらも宿泊可能なPCだが、より遠くのウィリアムズを仮眠所として選択してある。最終日を短くしたいのと、ワギンでは早くつきすぎて眠れない虞があるからだ。そのワギンまではリカンベントに乗った若いアジア人と一緒になった。登りではこちらが、下りでは向こうが速い。そしてここは下り基調のセクション。突き放されて真っ暗な道を進んでいると、彼が止まっている。どうしたの?と問うと「月を見たかい?」と。その指が指し示す方を見るとうっすらとした月。
「月食だよ」
 ああ、そうなのか。そういえば昨晩は月明かりがあったのに、今は真っ暗だ。
「月が隠れたから天の川も見えるよ」
 たしかに天の川まで見える。すごい。半径数十キロにわたって人工的な明かりのほとんどない荒野だ。満天に小さな星々が無数に、そして天の川がぼんやりとかすんで広がっている。月はまだ切れ味鋭く細い。しばし天を見上げながら走る。が、実はGPSの電池が無い。予備は使ってしまった。ドロップバッグには沢山あるのだが、なんで昨晩積み込まなかったかな。
 ここからしばらくは一本道のはず。GPSの電源を落として、遠ざかるリカのテールランプを必死で追う。

 ワギンには8時半ごろ到着。ここもそれなりの規模の街らしい。実のところ、このあたりはパース-オーリバニの最短経路近辺なので、街道沿いならばちゃんとした街があるようだ。このPCで休憩はせずにトイレを済ませ、バナナを食ったらパンを握って出発。もう月食は完全に終わっていて満月(だと思う)があたりを照らしている。街灯と都市の明かりの中で暮らしているとわからないけど、満月の月明かりというのはとてもすごい。ライトを完全に消してしまっても問題なく走ることが出来る。木々や自分の影もはっきりわかるくらいに。

 12時ちょうどくらいにウィリアムズへ到着。貯金9時間。5時半に起きて6時過ぎにスタートすればいいかな。5時に起きるように申告している人が多いようだけど、そのラッシュが済んだくらいがちょうどいいかも。じゃ、そういうことで、とお願いして寝袋にくるまった。
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PAP1200 第二日 オールバニまで 330km

 と、ここまで読まれた方はなんとなく感じられていると思うのだけど、話の山場みたいなものは無い。注目すべき名所や、不安高まる難所もない。退屈かと聞かれれば、たいていのロングライドは退屈なものだし、と答えるしかな。このコースを簡単に説明すれば、淡々と繰り返し続けるアップダウンをこなし続けるだけ。なんというか、あれだ。まるでPBPのコースのようだ。どこまでも続く丘陵を抜けてアップダウンがどこまでも続き、ただひたすらペダルを回し続ける。PBPの場合はPCごとの街がちょっとしたスパイス、気分転換になるが、PAPではいつのまにか移り変わっていく植生がそれにあたるだろうか。単純に”荒野”と書いているけど、森林地帯だったり、地平線の彼方まで見通せるようなところだったり、牧場だったりといろいろあるものだ。

 ナニャップを4時頃に出発。気温は6度と表示されていたが、上下ともにゴアのレインウェアを着込んでいるので寒くはない。徐々に夜が明けていくと、ここは森林を抜けていくルートだったことがわかる。広域農道ビーフラインのようだ。少しあたたかくなってきたところで雨具を脱ぐ。やがてペンドルトン(Pemdolton)の街についた。445km地点だ。
 ここでは朝食を食べていたシアトル軍団に合流。一緒にスタートするものの、バックパックを置き忘れていたことに気付いて引き返す。この気づいたポイントまでに10%近い登りが続いていたのでガックシ。しかも当然グループからは脱落ということになる。一人でペースを作るのは意外と厳しい。

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 シアトル軍団の走り方は、休憩後はしばらくウォーミングアップでペースがそこそこ緩い。だから追いつけるかも、と必死に追う。無理。そして足が売り切れ。ペースがガクンと落ちたところに「とても速くて、ゆっくりPCを出ても問題ないからゆっくり出てきた」現地集団がやってきたので「ついてかせて」とお願いしてくっついていく。なんとか千切れずにPCにたどり着くと、シアトル軍団が出ていこうとするところ。カップヌードルをかきこんでそれを追い上げる。なんとか追いついたが、もはや脚は回らず、やがて脱落。またもや一人旅。無駄に脚を使ってしまったけど、こういう目的がなければ一人でだれてもっとペースを落としてしまっていただろうから、プライマイゼロかな。

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 繰り返されるアップダウンが止まらない。アップのてっぺんにあがると、その次の次の次のアップダウンまで見通せるなんてザラ。コースプロフィール(断面図)で見ると、緩やかにいくつかアップダウンが連なってるな、という程度であっても、それらは実はさらに複数のアップダウンで構成されていて、それらも実は・・・というフラクタルアップダウン。どこをとって見ても同じようにアップダウンが繰り返される。アップダウンアップダウン、書き過ぎだ、と思われちゃうかもしれないけど、実際にはもっとたくさんアップダウンがあるのです。

 路面を評すのは難しい。轍などは皆無と言っていいい、ヒビや段差、継ぎ目なんかも無い。工事で掘り起こした跡も、たいていは奇麗にならされている。ほら、日本より路面よっぽどいいじゃん、と言えるかというとそうでもない。表面の粒度が荒いのだ。小石をアスファルトの上で突き固めたような感じ。走っていると細かい振動がずっと伝わってくる。大げさにいうとチェーンソーをずっと握ってるような。大げさだけど。
 おそらくロードトレインのような”超”重量貨物車を前提に敷設されているんだろうと思う。ちょうど大型車のタイヤが通る位置だけさらに目の荒い舗装になっているように見えることもあった。乗用車を運転していてもロードノイズはやかましいらしい。そんな路面だ。ただ、きれいな舗装のところはガラスのようにスムーズで、道路の用途によって舗装を変えているのかもしれない。

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 太陽が天頂から傾き、やや翳りがでてくるころ、デンマークという地域に入った。このような小規模自治体はShireで表現されるようだった。Welcome to Shire of Denmark!、のように。かの赤表紙本に敬意を表して庄と訳したい。つまり、ここは「デンマーク庄」だ。
 ずっと無人の森の中を走っていたけど、ようやく人家がぽつりぽつり。人家というより、工場(きわめて小規模な)などが点在しているらしい。作っているのはケーキやアイスクリームなどが多い。なるほど、デンマークとはデンマーク移民なのだろうな。
※なお、到達したのはデンマーク人らしいが、移民したのかどうかわからない。

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 夕焼けのころにデンマークに設置されたPCへ。600kmを突破。このまま順等にいけば22時過ぎには今晩の宿泊地オールバニへ入れる。手持ちの補給食をざっと鑑みるに、ここでゆっくり食事する必要は無さそうだ。バナナを食べてさくっと出る。すぐに陽が落ちた。テンションも落ちた。だんだんペースが落ちていく。なにもかもが落ちていく。

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 多少、雲は出ているものの、木々の影や地平線は見てとれる。街灯なんかどこにもないのに、と思っていたが、満月にちかい月齢のおかげで月明かりがある。ほとんど一直線と言っていいだろう二車線の幹線道路を黙々と走る。ときどき追いぬかれ、追いぬくことはない。GPSが表示する距離計だけが、進捗を実感できる唯一の指標だ。

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 GPSの電池交換なんかでリフレッシュしつつ(しかし真っ暗なのでそれも一苦労)、ようやくオールバニの街へ。意外としっかりした街で、明るい時間に来ることが出来たならだいぶ印象が違ったんではという感じ。PCの合宿所はだいぶ登った場所にあり、しかも住宅街の奥まったところ。この街は海に面した一面以外は険しい山に囲まれているので、平坦な港の一部以外はどこへ向かってもけっこうな坂だ。そんなわけで10%を上回る坂を登らされるのだけど、PCの場所が見つからず無駄ヒルクライムをしてしまう。それでもようやく、なんとか22時過ぎに到着し、受付でブルベカードにチェックをしてもらう。部屋は早く到着した人は個室、僕らくらいの到着だと四人部屋。そしてもっと遅い人は廊下に雑魚寝だったそうだ。なんという格差社会。実はここは「しおり」では個室だとの事だったので、四人部屋になってしまってちょっと残念。でも、仕方ないね。
 食事・シャワー・睡眠・朝食のルーチンをこなして、翌朝は4時ごろに出発予定だ。残りは500km強。