実はこの週には「東北1700km」というイベント(600km、200km、200km、300km、400kmのブルベが連日開催される)があったのですが、個人的に日本海側の東北旅行がしたかったので、それには参加しませんでした。今思えば、参加しておけばよかったかなあと思うことしきり。
さて、それはさておき。
ゴールデンウィークの妻の予定の方は詰まっていて、僕自身はなんか放置状態。来るべき東北自転車旅行に向けて、練習旅行をしようと思い立ちました。600kmを40時間以内で走るとか、1200kmを3日半で走るとか、そういうのではなくって、夜はしっかり寝てちょっとは観光もして、着替えも持って……というようなツーリング。漆黒の空間を指さして「ほら、日本海だよ」とかいうのではない旅。
さて、どこに行こうかと思った時、せっかくなので自転車で行ったことのない方角、かつ混んでなさそうなところ、ということで東北方面へ。東北1700kmのコースも見ていて、そちらの参加者が初日の仮眠場所にしそうな米沢がいいんじゃないかと決めました。このさい1700kmのコースを前日にトレースするのもいいかなと思ったんだけれども、それはやめて宇都宮から鬼怒川、南会津、会津若松と辿って米沢へ行くルート。210kmで2100メートルくらいの上昇量。
あれ? 普通のブルベコースっぽい……。
自転車は扱いの面倒な新鋭機(カルフィー・アドヴェンチャー)の投入をやめて、去年までの主力機ネオプリマート”鉄血長征号”を再就役。ブルベ向けの装備は全部取っ払っていたので、手元にある使っていないパーツで急遽ツーリング車に仕立て上げます。ハブダイナモ用のライトがついてないのに、ハブダイナモのホイールとか無駄に重い自転車が出来上がりました。
ハンドルバーエンドのプラグも脱落しちゃってる……。
とはいえ、鉄のフレームで鉄道輸送なんかも気軽。ペダルもLOOKからSPDにしたので、歩行も楽々ですよ。
しかも、ライト兼用というMP3プレイヤーなんかもついているので、山間の長い長い田舎道も退屈しません。
さて。
当日は早朝に新幹線で宇都宮へ行くつもりが、一本早い埼京線に乗れたので、在来の宇都宮線でゆっくりと宇都宮まで輪行。実は前夜あまり寝れなかったので、この長い車中はずっとうつらうつら。でもしっかりとは寝付けない。七時前に宇都宮へついて、改札へ向かうと、ちょうど日光線が来ているとのアナウンス。せっかくなので初めの20kmほどをズルして今市駅まで行くことにします。
今市駅前で自転車を組んで、ふとグローブが無いことに気づきます。
あれれ?池袋駅で置いてきちゃったかな? 実は、家に置きっぱなしでした。
まあ仕方ない。まずは鬼怒川温泉へ向けて走りますよ。
ひとときの熱海よりは寂れてはいないようにも見えるけど、駅前は全部廃墟ホテルという鬼怒川温泉。
通過します。ここから川治温泉、そして五十里ダムまでは今日一番きつい登り。
それらを通り越して、五十里湖。
会津西街道を北上します。この道はかなり交通量が少ないのですが、さすがゴールデンウィーク、それなりに自動車を見かけます。まあ、ほんとうに「それなり」ですが。この道沿いは、かなりの秘境。たしかイザベラ・バードも通った道のはず。かなりの秘境であるという描写だったはずです。東北側からも関東側からも、日本海側からも太平洋側からも山脈で隔絶された細長い谷間。静かな旅が続きます。
福島県との境は峠となっていて、ある程度登ったらトンネルで越えます。
あとは会津田島まで下るだけ。
会津田島はこのエリアで一番の街。街の入口にあるいつものコンビニへよって、一休み。60km進みました。
うーん、こんなペースで走っていたんではブルベみたいだ。コンビニ休憩だし。せっかくだから大内宿まで登ってみるかな、と思っていました。
桜も綺麗だな、と思って後輪側変速器を操作した瞬間、カチン!という小さな音がして変速レバーがぶらぶらに。あっ!こ……これは……。あれだ。ワイヤー巻上げラチェットを固定する爪(針金の輪っかだけど)が折れたんだ!どうしようもないので、しばらく走り、路肩へ寄せて「会津若松の自転車屋情報求む」とツイートします。まあ、まず部品はないだろうし、あっても今日中に修理はしてもらえるかどうか。自分でやってもいいけど、結構時間掛かるんだよねえ。指が痛くなるし。
ツイートして走りだす。大内宿案はキャンセル。会津若松までは下りだから、トップしかギアが入らなくてもなんとかなるぜ! とスピードに乗っけた瞬間に、後輪がバースト。なんかタイヤサイドが小さく裂けてるし。中の繊維がちぎれてるし。どうしよう。どうしようもないので、とりあえずチューブ交換。空気を入れてみると、チューブがはみ出してくるようなことはない。さすがアルトレモDD。とりあえずこれで行くぜ。もっかい同じ所にダメージ食ったり、時間がたったりしたらまずいだろうけど。
ゴールデンウィークなのに、そんなに混んでない観光列車。
まあ、明日からかな。今日は一日目で土曜日なので、トラックなんかも結構多い。
塔のへつりなんかもパス。
前の車についていたカーナビの音声認識は、目的地を発声すると、なぜか「塔のへつり」と認識しまくってたなあ。
会津若松へはサイクリングロードを使います。
しかし、ずっと北風なんだけど。ルート的には200km向かい風?
畜生、明日の1700km組も苦しめ。
ツイッターで教えてもらった自転車屋さんへ向けて彷徨います。
今、会津若松は桜ざかり。でも気温は27度くらい。あちーよ。
自転車屋さんへ到着するものの、やはり抜本的な解決は無し。
ここまで走るまでに考えていたように、ワイヤーを引っ張って、ローギア側でリア変速器を固定します。
フロント側の変速器は使えるから、ローとハイのみの二段変速。アウトランかよ。せめてターボアウトランになってくれ。
今市市や足利市、それに会津若松なんかで時折見かける自転車レーン。この簡潔にして完全な解答が実はとっくに存在しているのに、どうしてへんてこ自転車レーンを作り続けているのだろう? つうか、亀戸の基地外自転車レーンなんか報道せずに、こういうのを知らしめろと、いつも思う。
ここから米沢まで行くかなあ、それとも会津若松で一泊しようかなあ。
でも、米沢からなら新幹線一本で帰れるじゃないか、などと悩み続ける。
そうだ、さざえ堂に寄って行こう。観光してから米沢については考えようよ。
また道に迷って、地元のお子さん連れママさん集団に道を聞いたりしながら飯盛山へ。
げえ、これ登るのか……。
ん? これは何?
エスカーだ!
登り切って奥へ歩くと、白虎隊自決の地へ。いや、さざえ堂に行きたいんだよね。
なんか白虎隊にはシンパシー感じないんだ……。ごめんなさいね。
エスカーの降り口近くの分かれ道からすぐ先にありました。
そっちへ向かいます。
ちなみにこのあたりから白虎隊はお城を見渡して、落城したんだと絶望したはず。
会津のさざえ堂は二重らせんの構造になっている珍しい建築物。てっぺんで太鼓橋によって螺旋が繋げられていて、まっすぐ歩いて行くだけで、登って降りてくることができます。外観からもその特異な構造が見て取れるのは、此処くらいなもののようです。
DNAがどうとか、ダ・ヴィンチがどうとかいう説明もあったけど、それは眉唾だな。さすがに。
孤立した白虎隊が、連絡線を回復するために通った水道とのこと。向こうからやってきて、さざえ堂の脇を抜けて先ほどの高台へ至り、炎上する市街を見たのかな。
よし、米沢へ行こう。最後まで諦めない。
桜まつり。
桜の綺麗な田舎道。
しかし暑い暑い。まずいよ、水がない。店もない。
お! 自販機だ!
水を売れよ!
綺麗だなあ。1700km参加者はここを日没後に通過するはず。
そんなの不健康だよ!
とはいえ、僕にも日没が迫ってきています。
これから山形県境の大峠なる峠を超えなくてはならないのに。
大峠へ続く道は、広く新しいのだけど、トンネルだらけ。トンネルに入ると、他の車の音が大反響してすごい怖いんだよね。音圧だけでびっくりするくらい。すでに反射ベストをみにつけ、後方へのライトもバリバリつけてるけど、居眠りやらちょっとした見落としでいつかやられるんじゃないかとビクビクしながら登る。
そして寒い。
トンネルが冷風機のように感じる。
グローブないし、半袖短パンだし。
唯一の幸運は、この道の斜度はゆるくって、アウター(ハイ)側のギアでも登っていけること。
頂上。
なんかの冗談のようだ。
さっきまで28度あったんだぞ?
寒いよ寒いよ。
雪解け水が気温の数値以上に空気を冷やしているみたい。
ここにとどまっているのは危険だ。
てっぺんのトンネルは4kmもある。幸い下り基調なので、あまり車に抜かれることはなかった。
さすがに交通量はかなり減っている。
なんで俺はグローブをおいてきてしまったんだ!
下れば下るほど……寒い! 雪解け水が溢れんばかりの最上川が近づくと、ものすごい冷える。
離れると少しだけ暖かい。それを繰り返しつつ、やがて米沢市街。駅まで行って、米沢牛を食えるところを探し迷う。
米沢の味を堪能して、ホテルへ入ります。
タイヤのアナを瞬間接着剤で埋めたり、お風呂で洗濯したり。乾くかなあ?
それにしても、明日はどうしようかな。大峠を戻るつもりだったけど、あの4kmの登り基調になるトンネルを越えたくはないな。それも壊れた自転車でねえ。米沢には山形新幹線が来てるから、すぐに東京へ帰れる。荷物も重いし、それもありかなあ……。
つづく。