

僕の暮らすアーバインからクルマで6時間。辿り着いたコンフォート・インで前日受付を済ませ、予約していたモーテルへチェックイン。「あれ?キューシートもらってないぞ?」と気付く。一応、前年のコースデータをGPSへインストールしてあるので、コース更新とかいう情報がでてないかどうか確認のためにwebを見る。
「季節外れの寒さと雪が予測されるため、コースを変更することになります」
おやおや。どうなるんでしょう?南下するようなコースなら降雨降雪を避けれるかも?しかしコースデータも無く(アイドルについているサイコンはkm表示かつ日本時間

正直、面倒くさくなってDNSしようかどうか考えた。運転交代要員で細君も連れて来ているので、この辺を観光した方がいいんじゃないかな、とか。カルフォルニア・トリプルクラウン・シリーズには何の恩義も無いしなあ(恩義ってなに?)。装備の不安と状況への不満とでほとんど一睡もできず朝4時。まだ雨は降っていないようなので、ウェアを着込んでスタート地点へ向かう。そこには既に多くのサイクリストが集まっていて、キューシートを配るスタッフの姿も。ってキューシートの内容がA4半ページも無いんですが・・・?
そして必ず「いる」クリスに挨拶しているうちにスタート。エントリー総数220人が一気に朝5時の街へなだれこみます。このビショプという街は395号線ぞいでは「大都市」なんだけど、規模としては「猿橋」の街くらい。すぐに抜け出て荒野へ。ここは南北600km、幅30kmくらいの巨大な谷間になっていて、そうだなあ、ちょうど伊那谷のような感じ。西側には4000m級の山々が連なり、東側には3000m級の山々が連なる。海からの風が西の山々にぶつかるところで雨が降り、そこにはヨセミテやセコイアなど錚々たる森林地帯が広がり、そこで残った雨が東側の山々にぶつかったところで落ちて来てこの谷を多少潤すものの、かつての大規模な取水のためにいくつかの湖は枯れ果てたとのこと。さらに東にある谷と山脈を越えたところがデスバレー。世界でもっとも乾燥した地域。
40km地点までは先頭集団に食らいつこうと頑張り、結局脱落したものの平均35km/時ほどで休憩ポイントに。キャメルバッグを背負っているので通過。デスバレーロードへ入る。ずっと登り。時速10kmを割らないように・・・というレベルで進んでいく。平均6%の斜度でただの禿げ山を20kmほど登らされる。雲がやたら低く、ときどきぽつぽつくるのと標高もあがってきたせいか風が冷たいのでレインウェアを上下に着込む。フルグローブとキャップも欲しいなあ・・・。と思っていたら雨足が強くなって来た。着込んで大正解。ヘルメットにカツンカツンと音がしだすと「あられ」が大量に降って来た。おおおーあられだよー。雪で白い尾根を越えると下りが始まる。あれれ、45kmくらい直進なのに下るってことは、折り返して来て登るのか。いやだなあ、と考えつつも景色の映えない登り続けから気分一新。あられが顔にあたって無茶苦茶痛い。標高が少し下がるとけっこうな雨になって、そこを結構な勢いで下りつづける・・・が指が痛いのと「この速度でこけたらどうなる?」と気付いちゃったので急減速。って減速しね??!そりゃそうだ。この下りは平均7%で20km以上続くんだもの・・・。そんなの知らなかったよ。
下り切るとこれまた荒涼とした広い谷間の路肩にテントが。折り返しのチェックポイント。名前を告げて到着チェックしてもらい、ピーナッツバターを塗ったパンを一個食う。レインウエアのせいで補給食を食ってなかったので結構救われた。けど、今思えば全然足りなかったんだな。丁度僕が入って来たときにクリスがでていくところ。「今日はなかなかチャレンジンジングだな!」とのこと。他のサイクリストには「a lot of fun!」と言われる。お前らおかしいよ、わかってるけどさ・・・。
※チェックポイントから振り返って。この曇天の山々を戻る・・・。この谷はエウレカバレーと言って、デスバレーの北方にある。ここで舗装はとぎれ非舗装路を100kmくらいいくとデスバレー。ちなみにこの道へ折れるところで「この先160km何もなし」の看板が。アメリカっぽい。
登り返しで既に足が無い。今回は楽しみにしていたんだけどなあ。緑豊かな湖水地方、登りの斜度も距離もそこそこで快足ダブルを目指していたんだけど・・・。なんで月面みたいな荒野の山岳を、しかもあられまでくらいながらなあ・・・。はいはい楽しいロングライドは終了です。そんなものは存在しないのです。特に僕には。
最初に飛ばしていただけあってものすごい人数のサイクリストに抜かれていく。登りなのにリカンベントにも抜かれる。時速4km台でも自転車って倒れないんだなあ、とかそういうレベル。行ったり来たりしているサポートカーに載せられている自転車の数が増えていく。そうだよなあ、これを戻るとか考えたくないよな。僕自身にも「大丈夫か?やめるか?」とサポートから声がかかる始末。他のサポートの話からすると、顔色が相当悪かったようだ。
そんなときにものすごい轟音が空から。旅客機かと思ったけど、音が近すぎる、と思った瞬間に落雷のような音が後ろから頭上を飛び越し、目の前にF16の巨大な機影が現れる。州軍?すぐ先で右へバンクし、低い雲のさらに下をターンして西へ去っていった。コクピットでパイロットが手を振っているのが見えるんじゃないかという程の距離。ちょっとしたからかい気分の応援なんだろうか。いや、応援だな。
幸いにも雨やあられは既にあがっていたけど、ほとんど泣きながら頂上へ。さあ、こっから一気に下りだぞお!っと加速していく。視界がひらけて眼前に冠雪した4000m級の山脈とその麓の谷間が。ツールド草津の下りを思い出す・・・が、一気に体が冷え、腹筋と背筋がキューッ!としまるこれまでに無い感覚に襲われて「ゲ○ピー」の恐怖が頭をよぎる。「ゲ○ピー」でリタイヤだと誰も車に乗せてってくれんだろうと、自転車を路肩に寄せてしばし体を丸めて震える。そうしていると60km/hくらいで下ってくる自転車にさらにばんばん追い越されていって哀しい。ああ、クロスバイクに抜かれたよ・・・。
※下る途中で写真とればよかったな。
ブレーキを握りっぱなしである程度くだり、気温が上がって来たところでようやく何も考えないダウンヒル。下り切ったところにパスした休憩場が。ここで完全に無くなっていた水を補給し、バナナを2本食う。25kmほど幹線道路を走り続けてスタート地点に一旦もどる。
※スタート地点兼、中間地点兼、ゴール。現在中間です。
さてさて、ダブルセンチュリーも真ん中をすぎました。配られているサブウェイのサンドウィッチ(Planet Ultra主催のライドでは毎回サブウェイが用意されるみたいだ)を食いながらDNFしようかどうか考える。さっきの休憩場では止める気満々だったのだけど、まだお昼過ぎだし一応平均20kmペースだし、なにしろ気温があがって来ているし。こっから先のキューシートは「まっすぐ60km、左折10km、折り返し10km、60km戻れ」の4行だけ。そのまっすぐ60kmは幹線道路だから飽きるかもしれないけど、登りがきついとかそういうことはないだろう・・・。
2?3%の登りが60kmとは思っていませんでした。アンド、風。本物の竜巻
を初めて見ました。つむじ風とかじゃありません。荒野にまっすぐ非舗装路があるのかなあ、と思っていたらうねうねと動いていて竜巻と気付く。やがて斜めになってふっと消えた。あれが竜巻なのかあ・・・。と思っている間にも抜かれていく。うーん時速10?15kmくらいしかでない。し、
※ぐるりと見渡してみたりしてみて!
この景色が60km。登りで向かい風。本気でやめたい。「つまんねー」と叫びまくったりしてみる。「ウーゴ、ふがいない俺でごめん」とかつぶやいてみたり。かなり情緒不安定。寝てないしなあ。細君を呼び出してクルマで迎えに来てもらおうと思うが「迎えに来てもらう住所が無い」。そうこうしているうちにパンク。チューブから金属製の毛が生えてます。どんどん抜かれます。コースもきついけど、どんどん抜かれるってこた、自分が情け無いんだなあ。MTBにも抜かれる。大ショック。ウーゴ、死んで詫びます。DNFするにも圏外だし、住所もわかんねえしと思っていてもペダルを回していると進んでいて、この進んでいる分は帰りは「追い風、下り坂」なんだと「信じる」ことができる。ときどき折り返すサイクリストをみかける。最初の二人以降は随分間があいていた。ってことはあの二人は向かい風が強くなる前に抜けれたんだな。
ついに左折ポイントへ。曲がったところにチェックポイントがあるので「あれ?この先10kmのはずだけど、ここで折り返していいのかな?と舞い上がる。「この先7miles走るんだよね?」と一応聞いてみると「そうだ」とのこと。ガッカリ。10kmのヒルクライムが始まります。
いい加減、最後尾だと思っていたけど、まだ後ろがいるみたいでさらに追い抜かれる。途中、Benton Hot Springsという集落を抜ける。集落と言っても、Hot Springs B&Bという施設だけが生きているようで、Est1857の看板の掲げられたスーパーマーケットやOld Houseという資料館などはすでに廃墟。ほかに人家もなく、斜面に放棄されて久しい崩れかけた小さな廃屋がいくつか残るのみ。周辺にいくつかあるゴールドラッシュ時代のゴーストタウンのひとつなのだろう。
登り切ったところで僕を追い抜いたばかりのサイクリストとちょっと会話。彼らは特に遅いわけではなくって、まったり走っているだけなんだよな。中間地点も歓談して全然スタートしそうにないグループもいたし。ああ、ふがいない>自分。さて、時間は午後6時過ぎ。時間制限は17時間、現在13時間経過。残り70km。
下りきって再びチェックポイント。前のタイヤの空気がリーキングしているのでチューブ交換。バターのぬられたサンドイッチを食い、水を補給する。折り返しからここまで20人以上を見かけた。自分が最後尾かと思っていたので、少々びっくり。そして彼らのガッツに感銘を受けた。僕がタイムアウトしそうだからやめようと思ってるさらに後ろを諦めずに続けている人たちがいるんだな、と。つうかこのチェックポイントでこれから登ろうという人もいるし・・・。それはさすがに、間に合わないんじゃないか?
戻りの60kmはさすがに激走。途中、「カモンベイビー!」と抜いていく列車に乗せてもらった(最後の10kmでちぎれた・・・)おかげで1時間半ほどで60kmを走りきりゴール。完走時間15時間20分。今回は14時間きれるといいなーとか思っていたけど情け無い結果になった。
とはいえ、僕がこのタイムってことはあのときチェックポイントですれ違った人たちだってゴールで来たに違いないのだ。いちいち弱気になってはいけないし、諦めては駄目だ。そうすればきっと大丈夫。たぶん。
翌日、クルマで本来のコースをみてみた。難度的には走ってみないと何とも言えないけど、売り文句だった「サイクリストの天国」というにふさわしい美しい景色が広がっているのは確かだ。本当にテレビの旅行番組で使えそうなくらいの景色。来年も機会があったら出てみたい・・・。
[先頭の写真は例年の様子]