着替えて最後の準備。
ホテルの部屋から自転車を出してフロントでチェックアウト。週末にまた戻ってきますと伝え、外へ出た。ここからスタート地点である札幌近郊のモエレ沼公園までは十数キロ。30分ちょっとかな。でも信号がいし土地勘がないしでなかなか進まない。
ふと手をダウンチューブの方へのばし、ボトルをとろうとすると……手がスカる。え? と思ってのぞき込むと、ボトルがない。ああ、水を入れてそのまま置いてしまったのだな……。
さてどうしたものか。
とりあえずコンビニに自転車を寄せて、水を購入。予備のショートサイズのボトルへ入れておく。こんな陽光ならロングボトルとのダブルボトルにしなくてもなんとかなりそうだけど、天候が変わって陽が出てきたら厳しいだろう。うーん、あとでホテルに連絡して途中の宿へ送ってもらうとするか。
途中で数人のランドヌールたちと合流しながらスタート地点へ到着。ああ、なつかしい。北海道1200のときとそっくりだ。受付、車検をすませてスタート。
走りははじめてしばらくしたところで、僕の名を呼ぶ声が。ふと見ると、長野のTさんが来ていた。北海道出身の彼は、帰省がてらわざわざ僕の出走を見送りに来てくれたのだった。なんといううれしいサプライズ。応援の言葉に見送られて札幌を出て行く。さて、一人になってしまったぞ。
圧倒言う間に景色は平原を行く一本道。まだ札幌経済圏にいるから、交通量はわりあいあるけど、週末だから面倒になるほどではない。やがてポツポツと雨が降ってきた。PCとの距離や天気予報のことも考えて、レインウェアを着るかどうか一瞬迷ったけど、ログハウスのような丸太小屋があるのを見てそこに自転車を入れた。そしてバックパックからごそごそとレインウェア一式を出して装着。雨脚が強まってきていたので、ちょうどよかった。初日からずぶぬれだと、いろんなところに問題が出るかもしれない。それを抱えて五日間走るのは、今の自分には辛い。
そこから新十勝のコンビニに設定されたPCは、それほど遠くはなかった。
残念ながら雨脚は弱まり、というかほとんどあがっている。微妙だ。脱ぐのか着続けるのか。
補給をして(いるうちに自転車が一回ガターン! と倒れた。ショック)、出かけるときに「着続ける」ことを選んだ。だが、結局雨はすっかりあがってしまったので、ウェアの内側が汗でびっしょりしないうちに脱ぐ。
増毛へ向かう峠を登り、下っていった先は……海だ!
海なんだけど……天気わりーなあ。
コースは一旦南下。増毛の町で折り返す。ここで海の幸でも食べればよかったものを、結局PCのコンビニですました。すぐ先には古い町並みがあったので、そこへよればよかったと悔やむ。本間家住宅なる史跡があったので、酒井の本間家はこんなところにも拠点を置いていたのか、さすが日本海側の廻船問屋を抑えていただけはあるなあ、と思っていたけど、どうも関係無いようだ。
あとはひたすら左手に海を見ながら走るのみ。
フレッシュのメンバーだったYさんを連れてニシン御殿へ。あたりにはあまり大きな建物がなく、風が強いからか木立もないような海岸線に唐突に現れる巨大な木造の御殿。今はその目の前に幹線道路が伸びているからいいけど、かつてはほんと何もないところにドーンと建っていたのだろうか?
ニシン御殿から先で水がなくなる。なんとか工事現場にあった自販機でいろはすを購入するが、これがハスカップ味。北海道限定でわーい、とは思わず、しまった! という気分。ここから数日間、ボトルについたハスカップの味が楽しめたが………。
この日はあっさりとゴール。
ゴールのコンビニでレシートを取って、スタッフの待つ会場へ戻る。殆どの人は、ここ羽幌に宿をとっていて今日の打ち上げ会に参加するみたいなのだけど、僕はここからさらに30kmほど先にある初山別の宿に向かわなくてはならない。そして悲惨なことに……雨が降り出す。これまでにない強い雨が。
びしょぬれになって初山別へ。
翌日のスタート会場至近のホテルへ到着する。冷えた体を温泉で温めていると、自転車焼けをしている若人が。話しかけてみると、やはり参加者らしい。が、なんでも友人に誘われて参加したものの、完走は初めて。かつ、友人は参加しなかった、と。そしてさらに今日の晩は野宿……。CT誌の編集長のT氏と奇しくも同じ名字。個人的に彼のことをヤングT氏と呼ぶことにしたが、すでに前途の長さにおののいている様子。とにかく明日の400kmをクリアすればなんとでもなる、と励ましておいた。
ずぶぬれのウエアは部屋の風呂で洗い、靴と一緒にヒーターの前に置いて乾かす。
そう、8月の上旬だというのに……ヒーターを稼働させるんですよ。おかげですぐに乾いた。
つづく