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【落武者魂】 12 Cascade1200
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落武者魂

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12 Cascade1200

Cascade1200km 第六話

 マザマのオーバーナイトコントロールを出発。
 明るくなると、ここが綺麗な山間のリゾートであることがわかる。なんだろうなあ。こんな時じゃなくって、普通の旅で訪れてゆっくりしたいものだなあ。まあいい、残りは220キロくらいか。でっかい山を越えれば………越えたってどうせアップダウンがどこまでも続くんだろうけどな。



 仮眠所となっているコテージ棟と自転車を置いてある本部棟は数百メートル歩かないとならない。途中でボランティアスタッフのセシルさんに話しかけられた。僕はマシュー君はどうしてるか聞いてみた。というのも、スタッフの持っていた名簿中、彼は起床時間を指定していなかったようだからだ。セシルさんも、とても疲れていて、どうするかわからない、ということ以上のことはしらなかった。彼女の夫であるジョンがBBのトラブルでリタイヤした話などを聞いた。
 ついでに、ボランティアスタッフの人たちはいったいいつ寝てるんだ? って聞いてみた。昼間寝てるのよとのこと。すごいなあ、完全に昼夜逆転生活なんだな。そういえば、前に600kmブルベでも、この人はオーバーナイトコントロールで一晩中スタッフ業務をこなした後、翌朝からDNFの人たちを乗っけてゴール地点までドライブしてたっけ。タフさが違うなあ。見た感じはそうでもないんだけど。
 そんなところで話を切り上げてスタート。


※ドロップバッグなどを運んでいるトラック。

 I氏と一緒にマザマのPCを出ようとしたところで一人の参加者とすれ違う。たしかあれはイギリスから来た人。
「また次回お会いしましょう!」
 そう叫んでいったことをみるに、ここでDNFになるんだろう。もっとも、すでにタイムアウトするような時間なのだけど。

 一瞬、影ができるほどに日が射した。スタート前の天気予報では、カスケイド山地の西側は雨のはずだったけど、もしかしたら好転したのかと気分がたかぶる。道の先の方に雪をかぶった峰が見える。その先の空は雲で覆われているようだけど。

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※四日目コースプロフィール 上昇量が多いようには思えなかったんだけど、今見ると平坦がないね。

 登りになると置いてけぼり。ひとりゆっくりと坂を登る。ワシントンパスは1670メートル。頂上の気温がマイナスってことはないよな?
 しばらく登っているが、ほとんど誰とも出会わない。一人二人に抜かれた気がするくらい。やがてマシュー君がやってきた。よかった、DNFしなかったんだ。つうかやっぱりリカンベントのくせに僕より速い。あっという間に引き離されてしまう。なんというか自分にがっかり。



 と、雨が降ってきた。結局、雨なのか。しかも雪景色の中を。ガードレールへ自転車を寄せて、雨具を装備する。結局四日間使い続けてしまった。ふと見上げるとずっと先の方でマシュー君が路肩の広くなったところへ入っていくのが見えた。小便かな? 僕がそこへついたころ、彼が走りだそうとしていた。見ればシューズカバーをしていないので「ビニール袋があるぜ」と言って渡す。低気温・雨・ダウンヒルではさすがに耐え難いだろう。



 彼がビニール袋を履いている隙に引き離せるかと思いきや、あっという間に抜かれてしまった。
 途中でパンクを修理している人もいたな。雨の中、辛そうだ。まったく、この寒さで雨でパンクなんかありえない。泣きそうな思いだろう。そういえば、結局今回もパンクはなかった。今まで1200kmブルベでパンクしたこと無い気がする。その一方でちょっとした距離で連続してパンクすることもあるし、不思議なものだ。わざわざ替えのタイヤまで用意しているときには、ノントラブルだもの。


※ここでしばし立っていると、ようやく景色のでかさが飲み込めてきた。本当に広い景色。

 頂上近くで振り返ると、巨大なU字谷が見えた。この端っこをずっと登ってきたわけだ。しかしわかりやすい氷河の痕跡。ということは、この逆側、山側に残る雪はもしかして現在でも氷河なのだろうか? それともただ冬の雪が残っているだけで、もう少ししたら消えてしまうものなのか? 気温は低いけどひたすら登ってきたので寒さは感じない。ようやく登り切ると、峠のネームプレートの向こうにクルマが止まっている。僕が記念撮影をしていると、そこからドライバーが降りてきた。スタッフのかたのようだ。大丈夫か? というようなことを聞かれたので、大丈夫、と返す。ここからはもう大きな山は無い。とりあえず一気に下りてみるか!


※最後のでかい山を越えたという喜びに満ちている(w

 さ・・・寒い! つべたい! 染み渡るッ! 眠気と言うよりは寒さで意識が飛びかける。この雨と寒さのせいで下りなのに速度を上げられない。しかも、時々震えでハンドルの保持が怖くなるので停止したり。停止して震えが収まるのを待つんだけど、止まってれば止まってるで寒い。そんなのが何十キロも続く。ようやく標高1000を割る、700くらいになったら少し寒さが和らいできたかな。路肩に青いスタッフシャツをきた男性がクッキーの箱を持って僕に呼びかける。大丈夫かい? クッキーあるよ、と。ひとつもらいながら「ボクの後ろには何人いるの? 」と聞いてみる。ずいぶんゆっくり登った割に、しばらくの間誰にも抜かれていない。下りもかなり遅いのに。
「君が最後のライダーだよ。もう後ろには誰もいない」
 え? だってマザマにまだたくさん自転車止まってたよ? それにパンク修理してた人も。
「みなリタイヤした。この低気温の中の、雨中のダウンヒルは厳しいから」
 あとで聞けば、ワシントン峠のてっぺんまで来て諦めた人も少なくなかったらしい。残り200kmを切っているのだけど、簡単な雨中装備しか持っておらず断念したということか。


※レイニーパスはだいたいいつも雨だ、といわれたので、レイニーだけにね、と返した。HAHAHA!

 さて、ちょっとやばい気がしてきたな。ざっと計算するに次のPCには……まだ一時間弱は余裕が有るはず。基本的には下り基調。最後に何度か登り返しがあるけど、これ以上ペースを落とせない。スタッフに別れを告げて、下りを再開。しばらく進んだところで気づく。後輪の空気が抜けてる。いつから? 路肩へ寄せて、パンク修理。立ち止まったら冷気がモンベルのゴアジャケットを抜けて入ってきて、ガタガタ震えはじめた。手とかまともにタイヤレバーを保持できない。それでもなんとかタイヤを外し、チューブを交換していると白いステーションワゴンがやってきて、フロアポンプを片手に年配のスタッフの方がやってきた。
「パンクか? ちょっと貸してみな」
 と言って僕からホイールを取りあげる。僕のタイヤはディープリムで、後輪のチューブには延長バルブがついているのだけど、彼は誤ってそれを抜いてしまった。一気に抜ける空気(w おいおい。まあ、そんなこともありつつ修理して再スタート。しばらく下ると……あ、やっぱりタイヤの空気が抜けてるじゃん。また停止。こんどは青いシャツのスタッフがやってきた。というか、ぞろぞろとクルマから降りてくる。
 今度はタイヤ交換係、その間自転車を持つ係、フロアポンプを準備する係などゴージャス。フロアポンプを用意している人は、どうやらリタイヤした人らしい。半袖短パンでガタガタで震えながらやっている。というか、あなたはクルマの中にいなさいってば。
 自転車を持つ係の人が僕に「寒いからクルマの中にいなよ」と薦めてくる。でも、みんながこうして手伝ってくれているのに、ぼくだけ車内にはいられないよ。僕もみなさんと一緒にここにいたいんだ、と言うとわかってくれる。パンク修理は手際いいんだけど、合間合間にみんなで雑談が入るので結構時間がかかる。ちょっとドキドキ。
 一旦は修理完了ぽかったのだけど、バルブから空気漏れてね? って話に。その時にはさっき手伝ってくれたおじさんも来ていて「さっき俺、抜いちゃったんだ、テヘペロ?」って。 タイヤをはずしてチューブを抜き出しプライヤーでバルブを締め直す。もっかいタイヤをはめ直してみんなで拍手。空気をいれて自転車にタイヤを嵌める。
「どうもありが……」
 まで言ったところで、誰がか「タイヤから空気漏れてるぞ」と。
 見れば、小さい泡が表面からプクプクでている。
 タイヤをくるりと回すとアチコチから。


※こんな滝が無数に。これは小さい方。


※一回目の修理。震えが止まらない。

「困ったなー、何が悪いんだろ」と交換してくれた人。「こりゃ一旦タイヤもチューブも交換したほうが手っ取り早いけど、タイヤなんか無いしなあ」
 チューブ新しいのに。でも、原因を突き止めるには時間がかかりそうだ。そんなに時間が余ってるわけじゃないしっていうか、もう余裕時間なんかとっくに無くなってねえか? 新しいタイヤ? あ!
「タイヤありますよ」
「どこに?」
「ボクの背中に括りつけてあります」
 とバックパックにくくりつけていた予備タイヤを見せる。
「よし! これでいい!」
 とみんなでワイワイガヤガヤ作業をはじめる。自転車の品評を初めたり実に楽しそうだけど、時間的には気が気じゃない。
「あの、次のPCのタイムアウトっていつでしたっけ?
 みなが顔を見合わせ、うーん13時半だったよ、という。今51キロくらい残している。そこまで2時間か。もう下りは殆ど終わってる。2時間平均速度25km/hが絶対防衛ライン。だがもし……。
「もし、タイムアウトしても、最後まで自転車で走って帰りたいんですが」
 と聞いてみる。認定が得られなくとも、ここまで来たら全コース走り終えたい。
「えーと、つうかもう2時間で50km走らないとならないぜ? まだ走りたいの? 」
「ええ」
 すると、初めに修理を手伝ってくれたおじさんがコース管理担当とのこと。
「わかった。最後まで走れよ。俺が見届けてやるから安心しな。だから無理と無茶はするな」
「ありがとうございます」


※F1のタイヤ交換並に人が集まる。ワイワイガヤガヤで素早くはないけど。

 果たしてこの区間が今回一番楽しい区間となった。
 すでに1000kmを走り、そして10000メートル近くを登ってきた。体感気温マイナスという雪景色のダウンヒルを終えて、そして2時間で50kmを走り切らないとならない。わくわくしてくる。なんというこのギリギリ感。面白くなって参りました!って感じだ。下りになれば必死にこぎ、登りがあれば立ち漕ぎで回し、向かい風が吹けば諦めかける。楽しい。楽しすぎる。とにかく最後までヘタれるな! もう間に合いそうでも気を抜くな! 自分に言い聞かせる。叫んだりもする。大丈夫、いけるいける。二度ほどスタッフカーが通りがかって声援をかけてくれる。心強い。しかしせめてこのレインウェアを脱げれば。それだけでもかなり楽になるのに。


※疲れきった人々がたむろするコントロール

 次のPCは田舎の小さな商店。到着すると疲れきった何人もの参加者が佇んでいた。
 よし、まだクローズには10分くらいある! 僕は駐車上に颯爽と突っ込んで自転車をたてかけ、ガムだけ手にしてレジに並んだ。時間的には間に合ってる。が、店主のおっさんがテレビを見ながら描き込んだ時間は13時31分。つうかクローズ時間は21分じゃん。結局はアウトか。ちょっとがっかり。他の参加者と話していると「まあ、気にすんなよ。そんくらい大丈夫だよ。まあ、ルール上はさあ……つうか、こまっけえことはいいんだよ」とのこと。
「まあ、いずれにしろみなさんと同じコースを走りきれれば嬉しいスから」と応えると「そうだよ、それでいいんだよ。ガハハ」と返ってきた。
 このPCにはマシュー君もいたのだけど、ひどく疲れている感じ。僕が最後のライダーだって、というと「毎晩、オーバーナイトコントロールに俺よりか後に到着した参加者はみんなリタイヤしてるんだよ」とのこと。
 僕はこのセクションで盛り上がった気分がまだ残っていたので、あまり長く休まず最後のPCへ向けて走りだすことにした。雨の中を。なにしろ「明日は走らなくていい」のでノリがこれまでと違う。脚もクルクル回る。楽しくてしょうがない。



 昨日までの乾燥地帯がウソのように、今日は雨の農場地帯。丘陵を抜けていく。どこまでも平坦を許さぬコース。道の路肩が狭くなって、交通量が増えているのがちょっと嫌だ。さっきまでのセクションの勢いはなくなってきている。考えてみれば、補給をしていない。手持ちの食量も乏しいなと思っていたら、ちょうど小さな食堂を見つけた。東京から来ているD氏が休んでいたので、僕もそのお店にはいってピザを食う。店を出てしばらくすると雨は止んだ。空は暗いままだけど。

 店を出て走りだしてしばらくすると、お腹の調子が微妙。実は二日目くらいから、ちょっとばかしトイレ探しブルベをやっている。さっきの食堂でトイレ行けばよかった、とか対向車線を横切っててでもあのガソリンスタンドへよればよかった、とか思いながら1時間ばかし走っていたら、自分側の車線にガソリンスタンドを発見。トイレを済ませ、ついでにレインウェアを脱ぐ。ウィンドブレーカーの上にレインジャケットを着ていたのは失敗だった。いくらゴアでも、ウィンドブレーカーの下の湿気を逃すことはできない。暗くなる前にそれらを一旦脱いでしまって、少しでも湿気を追い出しておかないと。


※さあ、最後の区間。皆で一緒に行こう!

 最後のPCはマクドナルド。ここではI氏やD氏、そしてマシュー君も含めて10人くらいが集まった。クラブサンドイッチを食い、コーラをがぶ飲み。
 残りは35キロほど。2時間を見込んでも、23時くらいには到着する計算だ。I氏がここから先はとても景色がいいという。小さな湖を囲む別荘地なんかがあるそうだ。でも、もう日没だから何も見えませんよ、というとI氏はたしかにそうだと笑った。それから熊を見たという。I氏はスタート地点のモンローへスタート前に入り、この最後のセクションを走ってみたという。そこで子グマと出会ったとか。そういう話をすると、マシュー君もワシントン峠の登りで子グマを見たと。そういえば、前回参加した方からのアドバイスでも、熊と向かい合ったことを書いていた。どちらも人里だったり車通りが少なくなかったりするんだけど、熊にとってはあんまり関係ないらしい。特に子グマには。


※ゴール1


※ゴール2

 最終セクションはその10人くらいでがやがやと行く。途中で雨がふりだしたので、僕は脱いでいた雨具を着込んだ。
 この期にいたっても、アップダウンばかりだ。道はあまり広くない。両側は木立が続いている事が多く、暗い。街灯なんかめったにないし。
 そんな道を付かず離れず走りきってモンローのショッピングモール。もう10時を回っていて、人気は少ない。そのままだらだらとゴール。
 ホテルの前ではマークトーマスら、何人かの見知った顔が待っていてくれた。
 中に入るとゴールの受付へ通される。ブルベカードを渡すと、代わりに完走メダルをもらえた。
 地ビールを渡され、みんなでがぶがぶと飲む。パンク修理に付き合ってくれてたスタッフの人たちもすっかり赤ら顔。
「おう、よくガンバったな。めんどくさいトラブルだったけど、めげずによくやった、完走おめでとう」
「どうもどうも、応援してもらえて心強かったですよ」
 さてさて、今晩中に4日分の衣類を洗濯しなくっちゃな……。


※途中で電池が切れてたので平均速度とか距離とか若干おかしいけど、とにかく1200km!

おわり
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Cascade1200km 第誤話

「マンスフィールドには何か食べれるところあるよね?」
 と近くを走っていたライダーに聞く。
「いやー、よく知らないんだけど。小さい町らしいよ」
 とはいえ、こんなとこに町とか。ほんとか? って感じ。まあ、見渡す限り農場か牧場のようなので、無人の荒野ってわけじゃないんだけど。それでも町というイメージは湧いてこないなあ。
 でも、地図上では地方空港もあるらしいんだよね。
 まあ、こんなとこの地方空港なんて、広場と区別つかないようなもんだろうけど。

 おお、ついに道が曲がった。
 加速していく誰にもついていくこともできず、よろよろと道に沿って進む。たしかに……町……というか、建物が並んでいる地区。
 三輪車なんかが玄関前においてある素朴な家があった。こんなところで育つってのはどんな感覚なんだろう。まったく想像がつかない。
 飛行場の入り口(があるはずの場所)広場にテントが張ってあった。ちょっとだけ綺麗な芝生がひかれた場所だ。ようやっとマンスフィールドのPCか……。
 腹……へった。眠いし……。いい加減疲れた。



 ここではサンドウィッチとサラダが配られていた。サンドウィッチにかぶりつき、サラダを食う。コーラも飲む。味覚が死にかけていて美味しくは感じない。でも、少しでも流し込まないと。完全にエネルギー不足だ。先にリタイヤした日本人参加者の方々が、レンタカーを借りて応援に来てくれているが、ひどく愛想のない対応しかできない。自分がとても無表情かつ無反応になっているのがわかる。それは精神力も脚力の無い僕が、超長距離を走り切るための秘策を発動中だからだ。ともすれば折れそうな心を、ひたすら走り続けること一点にのみ集中して「ただ走ることを続ける」。他の選択肢を考えない。頑張るとか頑張らないとか考えない。疲れたとか疲れてないとか考えない。ただ、走らなくてはならない、そのことだけ見つめる。心を閉ざし、無感動に。

 そんなんで面白いのか?
 もちろん、面白くなんか無い。
 でもそんなの関係ない。走りきれればいい。そのあと面白かったかどうか、考えればいい。
 走ることをやめなければ、たどり着ける。そう信じ続けることはできる。
 走るのをやめれば、そこで終わってしまうのだけは明らかなのだから。



 I氏は先に出ていった。
 マシュー君は少し目をつむって休んでから行くという。
 僕はBCのグループの少し後に出発し、なんとかそこにおいついた。
 この向かい風に立ち向かうには、少しでも人数の多いグループに混ざった方がいい。だけど、アップダウンがきつくなると、どうにも追いつけない。あれ? 時速20kmを保てない? しかしあちーなあ。汗がドバドバでるってわけじゃないんだけど。空気が乾燥しているから、汗は皮膚に出た瞬間に乾く。だから汗を感じることはめったにない。あちーことはあちーんだけど、日本のような暑さとはまた違うタイプ。

 ついにダウンヒルが始まる、というときには僕はもう一人ぼっち。
 長いダウンヒルを一人で下り、ブリッジポートという町についた。巨大なダムのある町だ。
 なんか喉が渇いたな。ボトルの水はなんだかヌルいし、どうしよう。冷たい水がほしいような気もする。
 それに、眠い。
 道端にあったテーブルとベンチのセットを見かけ、自転車を止めて座り込む。
 燦々と直射日光に照りつけられながら、僕はテーブルに突っ伏して休む。もしかしたら少しは眠れたのかもしれない。やっぱり汗は出ない。でも乾燥している地域だし、そんなもんだろう。うーん、まだマシュー君は来ていないようだ。まあ、いい。行くか。すぐ走ったところで、BCグループがなんかのお店によって再スタートするところだった。それに追いつこうとして失敗。ここから登りが始まる。実は、なんでだか知らないけど、ついさっきまでこの日に大きな登りがあることをすっかり忘れていた。うんざりすることに、また1000メートル級。900メートルくらい登らないとならない。名前はループループパス。なんだかふざけてる。畜生。あちーぜ。



 ところでさっきから口の中がカラカラだなあ。あんまりカラカラだもので、唾液でも出るようにしないと……と思うものの、ちっとも唾が出てこない。これはいったいどうしたこと? もしかして、これは結構まずい状態じゃないのか? 唾液さえ出ない状態ってことか?



 あわてて水がぶがぶ飲んで、ついでに背中とバックパックとの間にボトルの口をつっこんで水を注入。乾燥した空気のせいで一気に乾いていくけど、気化熱で体も冷やされる。頭も少しすっきりして出力も上がりついさっき僕を追い抜いていった数人(マシュー君含む)に追いついた。そしてちょうどその先が今日最後のPC。噂では地元のレストランだということだったけど、実際に到着してみたら空き地にテントが張ってあるだけ。クッキーとドリンク、それから食パンとジャムなんかが用意されていたっけかな。
 クーラーボックスに腰掛けて少し休むが、そう長居してもしょうがない場所だ。暗くならないうちに山を越えたい。見上げれば明らかに日が傾いている。正直、それは助かったところもある。さっきの状態は明らかに脱水か熱中症の入り口。それなのに暑い盛りに日の当たるベンチで突っ伏して寝ていたり、水も飲まずによろよろと坂を登っていたり。すぐに昼下がりになったからよかった。



 さて、ループループパス。
 しっかりした二車線道路がうねうねと続くだけの道。斜度は5%前後だろうか。視界の開けた場所のないただただ林を抜けて登っていくだけの峠道。恐ろしく単調だ。はじめの頃に何人かに追い抜かれていったものの、日が陰ってきて体力が戻ってきたおかげか、先行する参加者を追い上げることもあった。とはいっても、追いつくことも追い抜くことも無かったのだけど。

 一人で歌い、グチり、わめきながら登っていく。てっぺん近くになって気温が下がってきたので雨具を着込んでダウンヒルに備える。ここも余裕で千メートルを越える標高の峠。気温は一桁台前半になっていても不思議ではない。



 頂上でようやく先行する人々を捉える。彼らも防風装備を着込んでいるようだった。僕はそのままダウンヒルへ。そちら側はこれまでの乾燥地帯とは違っていて、雨も降っていた様子。湿度の強い霧っぽい空気が視界を遮る。道幅は狭くないし、タイトなコーナーがあるわけでもなさそうだ。ここはディスクブレーキを信じて一気に降りていくしかない。途中でマシュー君のリカンベントを追い抜く。彼が危ないから気をつけろというようなことを叫んでいた。後で聞いたら野生動物がいるかもってことだったらしい。その時は路面が濡れてるから気をつけろと言われたのだと思っていた。路面が多少濡れていようと、霧雨が降っていようと、僕はこのエンヴェのフォークとディスクブレーキの制動を信じていくのみ。長いダウンヒルだったけど、幸いにして野生動物に飛び出されることもなく下りきる。路面は完全に良いとは言えないけれど、いくつか大きめの亀裂をみかけたのみ。もっと早い時間に下っている多くの人々にとっては、まったく問題なかったろう。

 下りきったあたりでI氏と合流。マシュー君も追いついてきた。そしてちょうど日が落ちて暗くなった。次のオーバーナイトコントロール、マザマまでは残り60キロほどか。ずっと登りだ。実はループループパスを終えればあとはほぼ平坦だろうと思っていたので、登りという事実は心に重い。しかも、本当の真っ暗。振り返れば完全な漆黒。



 マシュー君がどうにもこうにも眠いので、先に言ってくれとつぶやいて止まる。こんなところで? というほどの場所だったけど、こっちも疲れ切っていて少しでも早くPCへ行きたい。まだ後続のグループが一つ二ついるので、危険なことはないだろうと先行することに。彼が目覚めれば、僕よりずっと速いのだ。きっと追い上げてくるだろう。マザマのコントロールまで、結局速度が乗ることはなく、12時を回っての到着となった。マシュー君は結局追いついて来なかった。GPSを見れば、マンスフィールドのCPの到着からここまで、約160キロを11時間もかかっている。本当は夜10時頃には就くんじゃないかという予定をたてていたんだけど、もうそれどころの話じゃあない。

 マザマはこれまでのオーバーナイトコントロールとは違って、リゾートホテルを借りての休憩・仮眠所。自転車を置いて、ラザニアをもらう。しばらくしてマシュー君もやってきたけど、ひどく疲弊した表情で、スタッフのセシルさんと言葉を交している。ふと気づけば姿が消えていた。どうやら何も食べずに仮眠所へ向かったようだった。



 仮眠所は、借り切っているホテルの部屋。I氏と同室になった。ちゃんとしたホテルにちゃんとしたお風呂。快適な部屋。あっという間に眠りに落ち、あっという間にスタッフがドアをたたく音で起こされる。

 マジか。
 もうそんな時間か。
 部屋を出るとすでに明るい。
 事前の予定では朝3時とかにスタートするつもりだったけど、到着遅れと披露に負けて4時過ぎまで寝ていてしまった。ここから1700メートル弱まで登りっぱなし。すでに標高のある場所だけど、それでも1000メートルは登る。ちょっとだけタイムアウトが気になるけど、まあ大きな問題さえなければ大丈夫なはず。心配していた雨もどうやら降ってはいないようだ。



 まだたくさん自転車も止まってるし、大丈夫だろう。

つづく

Cascade1200km 第四話

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※三日目のプロフィール この右側にそびえ立つ峠。途中までその存在をすっかり忘れていた。気付いた時の衝撃……。

667km地点。オーバーナイトコントロールのクインシーに到着したということは、この1200kmブルベも半分を過ぎたということ。明後日も走らなくてはならないという現実が胃を重く感じさせるけど、とにかく半分だ。そして事前に考えていた予定時間ぴったしだ。ふう、着いた、とPCに指定された学校に入る。立派な建物だが、ここも体育館のようだ。しかしまあ、ナチェスもそうだったけど、単なる体育館にはとても見えない。複合スポーツ施設ですよこれは。なんでこんなに贅沢なもの作れるんだ? こんなド田舎に。箱物行政ってレベルじゃないぞ。これが世界最強最大の帝国の力か。恐ろしい……。米国債と言う名の上納金のことが頭をよぎる。

 入り口ホールに入ると、スタッフのひとりが自転車を置く場所を探してくれる。とはいえ、もう最後尾に近いのであまり空いている場所がない。結局一番奥に置くことになった。ホールへ取って返し、S&Sレンチを探す。果たしてそれはあった。急いで自転車の元へ戻り、継手を増し締めする。これで一安心。次はシャワーだ。ホールと、その奥とを行ったり来たりして、着替えをもってシャワーへ。やはり前日と同じようにポールにシャワー水栓がいくつもついたやつ。今回は二つ並んでいる。ウェアを脱いで、足首を見ると……。ああ、ぶよぶよっと腫れてる。ちょうどかかかととすねの間くらいのところ。アキレス腱滑液包炎だとか言われたやつ。それにアキレス腱がかかとに付着している部分が傷んでいる。時々すこし痛い。一日目はなんとかなってたんだけどなあ。どこまで持つかなあ、これ。そして、どこまで悪くなるのかな? ただ痛いだけならいいんだけど。気分は滅入るけどね。


※クインシーコントロール、朝の風景。左手に体育館があってそこが食堂。ホールに置いてある荷物はドロップバッグ。ドロップバッグは自分でトラックに乗せないとならないのだけど、KBと名乗る若い女性のボランティアスタッフが運んでくれた。小柄で可愛いアジア系の女性で、今回のカスケイドには僕らしかアジア人がいないからぜひとも完走してほしいと激励を受けた。ちなみに既婚者。 

 それから食事。途中、遅れていたマシュー君を見かけるが、まるで幽鬼のよう。とりあえず明日朝五時ごろ出るよ、と伝えて僕は食堂へ。食べ終えたらまたホールへ戻り、スタッフに寝たいと告げる。しかしスタッフの人たちはいったいいつ寝ているんだろう?
「仮眠所はちょっと離れてるんだよね」ということで、またスタッフのかたが案内してくれる。僕は寝袋をもってくっついていく。実際、とても離れていた。この建物の中ではないのだ。裏口から一旦、外へ出て(結構寒い)空き地を横切って隣の建物へ。そこは広いがガランとした暗い部屋になっていて、床にごろごろと参加者たちが寝ている。スタッフはうろうろと空いている床を探し、ここに、と指さした。僕がそこへ寝袋を広げていると、彼は枕元になるあたりに起床時間を書いたメモを貼り付けていった。今度は大丈夫だろうな。

 エアコンの機械が壊れていたとかで、一晩中ゴンゴンとうるさかったが眠りに落ちるのは一瞬のこと。しかし残念ながら、比較的早く目が覚めてしまった。一回目が覚めてしまったら、今回はちゃんと起こしてくれるだろうかと、なんとなく不安になってしまったのか二度寝ができない。とにかく黙ってめをつむって寝転がっているだけでも体力は回復しているはずだと信じて過ごす。起床時間より少し早めに部屋を出て(やっぱり寒い。寝袋をかぶって移動する)、食堂へ朝食を。そこにはI氏たちもいた。用意して……あれ? フロントタイヤにゴミ……じゃない。ざっくりサイドから1センチくらいに渡って切れ目が入ってる。うわあ……でも、チューブがはみでるような雰囲気もない。形状は保っているから、まだ走ることができるだろう。一応、こんなこともあろうかと別銘柄だけどスペアタイヤを持ってきている。これを使うことになるとは思えないけど、一応もってくか。バックパックになんとか括りつけることはできそうだ。これでまあ、一安心。そう思って外へ出る。さて、みんなと行くか。


※とりあえず、括りつけてみた。

 走りだしてすぐに……ちぎれた。ものすごい強風……。どうすればいいんだ、こんなの。
 そしてもう駄目なんじゃないか? この調子だと。


※この人達と走れたのは一瞬のことでした……。

 マシュー君が追い上げてきてくれて、一緒に走ってくれる。ありがたい。観音様のようだ。
 風はどんどん強まっていく。もはや台風並みと言っていいと思う。ところどころにある防風林が、人類の英知の結晶のように思われる。緩やかな丘陵がどこまでも続いている。雲は低く、うすぐらい。たぶん、ここはフランドル地方だ。あそこは風が強くこんな景色だと聞く。昨日はアンダルシアで、今日はフランドル。なんという贅沢なブルベだろう!
 さて、僕のバイクは前後共にディープリムホイールなのだけど、この強風でもそんなに怖くない。なぜだろうと思ったが、みっつほど理由を思いついた。ひとつはENVEのリムはかなり横風耐性が高いということ。でも他のディープリムリム・ホイールをたくさん知っているわけじゃないけど。それから、急な突風があまりないということ。日本の道で風が怖いのは、建物や地形が引き起こす突風だ。急な横風。あまり遮るもののないここでは、その心配をしなくていい。ただひたすら風が強いだけだから。そして交通量。早朝の農地を行く道なんか、通る車は少ない。だから多少、風でフラついても怖くない。そもそも速度でてないし。
 というか、と考える。
 そもそもディープリム・ホイールでも、本当に怖いのは下り坂で斜め前から突風を食らうようなシチュエーションだけだろう。
 こんな平坦で風が定量の場所では、それほど問題にはならない。
 そんなわかりきったことをひたすら考えていたら、ようやく交差点。そしてより風が強い方向へ針路は変わる。
 もう泣きそうだ。立ち止まってレインジャケットをかぶる。風が強すぎて体温が奪われるから。
 ゆるい上りを、小さな市街地へ向けて走る。このど田舎ではちょっとした都会に違いない。


 
 古い映画館。
 寂れたモーテル。
 中古車ヤード。
 うらぶれた家具店。



 ああ、その先は絶望的なまでに荒野。
 この町に入るころには雨も降ってきた。全身雨装備に戻り(毎日毎日……飽きもせずよく降ってくれる……)空気抵抗を増やして走る。走るというか、なんというか。へろへろ。しびれを切らしたマシュー君は先に行ってしまった。ついに一人。たったひとりこの荒野に……。もう思考回路を閉鎖して、ネガティブなことを考えないようにする。ポジティブなことも考えない。ただ、ひたすら走る。ああ、これだ。これだよ。よし、気合を入れよう。敗走開始。


※この写真では左から右へ風が吹いています。風の向きも進行方向も何十キロも変わらないのでほんと辛い。でも、今となってはどのくらい辛いか忘れた。


※写真を撮ってもらうために風上を向いたらヘルメットがずれた。まるでヅラのようだ。バックパックからはみ出しかけているのはウィダーインゼリー。結構救われた。

 ちょうど自転車の一団がやってきた。これ幸いと、後ろにつかせてもらう。女性もいるグループだからか、なんとかくらい付いていけそうだ。道は渓谷に入っていく。広い谷間だ。ええと、伊那谷くらいかな? 相変わらず比較対象物がないのでその大きさが実感できない。この地形のせいで風はよりひどくなってくる。先頭を行くのはツーリング車に乗る年配で恰幅のいい男性だけど、なんという力強さ。とてもあのレベルに自分が到達できるとは思えない。おそらくこの一団の中心はカナダの人たち。ブリティッシュコロンビアのクラブっぽい。一回二回、前の方へ出たけど、馬力が違いすぎる。黙って後ろに食らいつくのが得策と判断して下がる。
 渓谷の先はスプーンのように広がっているようだった。そしてその縁を削るようにして上へ上る道が続いている。そこら辺で風が巻いて、ものすごい横風。たとえ前のサイクリストまで10cmまでつけても何の恩恵も受けれないほど。後ろに居たサイクリストが、へばっている僕を見かねて「ドラフティングに入れ!」と真横を走ってくれる。ありがたいが、残念なことに登り坂になってはぐれてしまった。

 登り切ったところにあるビジターセンターが今日、はじめてのPC。東屋にお菓子がいくらかと水が置かれているだけ。そういえば、ここはクイズコントロールだったけど、ブルベシートに書いた記憶が無い(w 大丈夫なのか。まあ、いいや。


※Dry falls ああ、大きさ感がわからない。マイルドセブンを置いておくべきだった。

 ドライフォールズ。高さ・幅共にナイアガラの滝をはるかに上回る規模だという古代の滝の痕跡。だというのに、比較対象物がないのでやっぱり大きさがピンと来ない。彼我の距離感もつかめない。なんでもかんでもデカすぎ&広すぎ。なんか、よくアメリカの自然を見る番組なんかでタレントが「実際来るとその巨大さに感動しますね!」とかいうけど、本当だろうか。僕にはただの背景のようにすら感じられてしまう。感受性が貧困だから? 感動に慣れてしまっているから? 



 ワシントン高地では氷河期の終わりに、巨大な古代湖が決壊。高さ120メートルという莫大な水の流れが一瞬にして、ここらの地形を作り上げたんだとか。ドライフォールズも、さっき走ってきた渓谷も、その時の名残。ついでに言えば、ワシントン州内陸のこの高地全てはその濁流に洗い流された後の地。そういう洪水の記憶がノアの方舟のような話になったという人も居ますが……まあ、浪漫のある話ではある。でも、ロマンでは人の腹は満たされない。クッキーとポテトチップス……。正直なところ、もうすこしなんかまともなものが食えると思っていた。たとえばサンドウィッチくらいはあるんじゃないかって。70km無補給で走ってきてこれかよ……。まあ、いい。次のPCまで50km。雨も上がったし、なにか食えそうなものがある場所があれば、立ち寄ろう。



 長い下り坂……なのに20km/hが出せない……ギギギギギ。そして登り返してわかった。
 食い物なんてどこにもない。
 水なんてドコにもない。
 そうかクインシーのオーバーナイトコントロールから120km、まともな補給なんてなかったんだ。
 なるほど、前回の参加者たちがこの区間で(注:ここらのコースは変更されている)熱中症でバタバタ倒れたはずだ。



 ただっぴろいだけ空間を向かい風をかき分けて進む。
 そういえば、晴れてきてる。雲が切れて青い空が広がった。それはいいんだけど……そうすると暑いのよね。
 I氏やマシュー君も一緒になっていたので、多少は心強い。しかしまあ、地平線のかなたまでアップダウンが繰り返されているのを見るとちょっとキツイ。キツイけど、そう感じないように心を閉鎖している。もう何も考えない。ただ、今の苦境を凌ぐことだけ。こげ、こげ。足を止めなければ進んでいられる。進んでいれば、次のPCへ近づく。次のPCにたどり着けば、少し休んでいいぞ、俺。


※この岩、超でかい。でもわかんないよね。さっきの写真のトレーラーと道路の比率と比べてみてください。

 広大な平原に、巨大な岩石が点在する。これまたスケール感がないけど、たぶん三階建ての家くらいはでかい。これは一体何だ? なんかの巨石信仰? とか思っていたのだけど、これまた氷河期最後の大洪水が運んできたものだと判明。ほえー。

 ほえー。

 ほええぇ

 ぇええぇええぇ。

 つかりた。

 もういい加減向かい風はヤメロ。この強い日差しもヤメロ。地平線まで繰り返すアップダウンももうイラン。

 早く終わりたい。

つづく

Cascade1200km 第惨話

 しかし、なんというか。
 このコースは本当に登ってるか下ってるしか無いんだな。
 実はカスケイドについて、あまりよく知らずにエントリーしたのだった。とにかく山脈を超えるというのと、それなりの獲得標高があるというので、平坦-でっかい山-平坦-でっかい山……みたいなのを想像していた。PBPがひたすら小さいアップダウンの繰り返し、北海道が平坦基調、その前のGRRは平坦-とにかく山登り&下り-平坦、というのがこれまで経験してきた1200。今回はまた新しいタイプ。PBPのアップダウンの合間に1000~1700メートルという山が挟まっているようなコースだ。一日一回はでかい山を登らされるようにできている。まあ、色んなコースがあるもんだなあ、と感心してしまう。
 それにしても、どの1200kmも同じように感じることがある。



 とにかく退屈。ひたすら退屈なのだ。

 これはもう、絶対に中盤くらいに重くのしかかってくる。すごい脚力があって最初から最後まで攻めこんでいけるような精神力があれば、退屈なんか感じないんだろう。でも、僕みたいにとりあえず走りきれるっぽいけど、遅いというタイプだと走る時間は長くなるし、あまり追い込むこともできないし、それでどんどん退屈度が高まってくるのだ。
 これは毎回いうのだけど、どんなに言葉を尽くしても、写真を載せ説明したところでこの退屈さを理解してもらうことはできないだろう。本当に悔しい。それこそが、この距離を走り続けるということの中核となる苦しみなのに。退屈を文章として記すことはできない。その時間分だけ空行で改行し、しかもその行を飛ばすこと無く読んでもらえることができるなら、この苦しみもわかってもらえるかもしれない。

 いつものように退屈について考え、退屈、というか時間そのものをどうやって表現できるのかとか悩んでいると、ようやっとひとつの荒涼とした丘を登り終えた。そこから先、いきなり時速45kmほどを軽々キープして一気に距離が進んでいく。ものすごい追い風だ。この午前中には壁のように僕らを押し留めていた風が、ようやく味方となった。しかし、ときに登りなんかで微妙な違和感を感じることがあった。なんかすごく嫌な予感。フレームが柔い? なんか……そういえば……俺、この自転車組み立てた跡でS&S継手の増し締めをしようとして、したっけ?トップチューブは締めた記憶があるけど……。走りながらダウンチューブの継手当たりを握ってみるけど、特におかしいことはない。が……。とりあえずキューシート上でレストエリアとなっているところまでは行ってみよう。そこで確認しよう。
 他にもS&S継手を使ったデモンタブルの参加者はいるから、継手を増し締めするレンチを持っているかもしれない。


※この右側がハンフォード・サイト。カメラを向けると電子素子がやられる(ウソ)。

 追い風ゾーンは突き当りになって終わった。突き当りの先にも道は続いているのだけど、そこは厳重なゲートになっている。カスケイド1200のルートはそこで左折し、フェンスが続くその脇を北上していく。もう追い風の恩恵を受けることはない。これから先ずっと。いや、むしろ……。と、脳内コース図をトレースしながら嫌な予感を描いていると、マシュー君がやってきて右手のフェンスの向こうを指さし、放射性廃棄物で汚染されたエリアだと教えてくれる。他のサイクリストも同じような話をしてくれた。
 ここはハンフォード・サイト。かつて原爆を製造するためにプルトニウムを生産する原発が集中して立地していた。ここでの生産が終わり、原発は停止したが、廃棄物によって高濃度に汚染された大地が残った。埋められた大量の放射性廃棄物からから漏れだした汚染廃液がコロンビア川へ流れ出ている(可能性がある)ということで問題になっている。それから数十年、ここではいわゆる除染の研究、実作業が続いているものの、進捗は遅れに遅れていて、いつになったら終わるかもわからない、そんな土地だそうだ(Wikipedia調べ)。
 もっとも、見渡す限りではフェンスの先には何も見えない。地平線の先まで続く荒野だ。その恐ろしく広大な土地が立入禁止エリアになっている。まあ、もっとも、こんな場所はそもそも立ち入る人もいなかったろうけど。



 さて、視線の先にコロンビア川が削った渓谷が見える。両岸ともにつきたった壁のようだ。その壁をえぐるように敷設された道路を一気に下る。途中で路肩にしゃがみこんでパンク修理をしていたオレゴン・ランドナーの代表が「ガラスが散らばってる! 」と叫ぶ。たしかに路肩にはおそらくビール瓶由来と思われるガラスの破片が散っていた。一日目は雨で、そして今日はこういうガラス片でのパンクが多いようだ。せっかく広い路肩があるのに、こうやって車窓から投げ捨てられたビール瓶のおかげで車道に割って入らざるをえない。それでも気持よく下りきり、コロンビア川を渡る鉄橋の前に小さな緑あふれるオアシスがあった。そこがレストストップ。トイレや自販機、水飲み場がある。この日は気温も上がって、なおかつ乾燥していたので、水もなくなったころ。ちょっと休憩することにする。
 僕は懸案だったダウンチューブ側の継手を手で……少し力を入れたら緩んでしまった。背筋がゾクリとする。とりあえず、渾身の力で締め付ける。が、所詮は僕の手の力だ……。トイレに立てかけている自転車を見ていたらS&S継手を使った自転車があった。これは誰の? と聞いて回ると、マシュー君があそこにいるジェームズだよ、と白い髭のおじいさんを指さす。彼のところに言って「すみません。S&Sのレンチはありませんか?」 と訊くと「いやあ、もってないよ」
「ドロップバッグには?」
「いや、持ってきてない。困っているようだな。うーん、他にS&S継手を使った自転車に乗っているこういう名前のやつがいるから、オーバーナイトコントロールで探して聞いてみるといい」
「ありがとうございます」
 しかたないので、もう一度両手で渾身の力で増し締めして行く事にする。
 簡単に外れることはないとは思うけど、危険な状態ではある。もし今日のオーバーナイトコントロールで増し締めができなければ、これ以上の走行は諦めたほうがいいかも……まてよ、ドロップバッグ? 僕自身のドロップバッグはどうなんだ? 考えてみれば工具を入れた袋を脇のポケットに入れたはず。レンチを入れたという明確な記憶はないけど、あそこに入れずにどこにいれるというのか。きっと……あるはず。今はそう信じよう。



 鉄橋を渡ったところでマシュー君が言う。
「この先に最低で15%の登り坂がある。僕は押して登るから、君は先に行っててくれ」
 リカンベントではちょっときついのだろう。なにしろ彼は(骨折後のくせに僕より速いけど)リカンベント初心者なのだ。いままだ乗ったのは二回だか三回。最長距離は平坦の200kmだけ。歩いて登るのもやむをえまい。僕もS&S継手の不安があるので、立ち漕ぎは避けて……登れるような坂ではなかった。20%近い避けようのない坂。しかも……もうほんと嫌になるのだけど……広めの二車線道路全面に「かまどうま」がびっしり。カマドウマとバッタのあいのこ? こっちの人はクリッパーだとか言ってた。とにかく気持ちの悪い、しかも大きな虫だ。生きてるクリッパー、クルマに轢かれて潰されたクリッパー、それらが無数に路上にいる。なんだこれは。あれか。墨子の罠か。この虫で緑の大地を食い荒らしたのか。きっとそうに違いない。しかしなんでこの坂にだけびっしりいるんだよ……。まあ、ほとんど速度が出ないから、踏み潰さずよけることができる(できたと思いたい)のが幸いか。


※無数のカマドウマに占拠されたクリッパー峠。あまりのキモさに地面を撮影できませんでした。

 ちょっと気持ち悪くなりながらクリッパー坂を登り切ると、路肩でI氏が寝転んでいた。なにしてるんですか、と訊くとマシュー君もしばらくこないだろうから、休んでいるという。まあ、それもいいかもしれない。僕もS&Sの緩みを確認して(大丈夫そうだ)、それから体育座りして目をつむった。もっともあまり時をおかず、リカンベントに乗ったマシュー君はやってきたのだけど。



 マタワまでは再び向かい風と戦うことになる。I氏も言葉や口調は元気そのもの、普段と変わりないが話す内容やバイクの挙動なんかに疲労の色を感じる。日も落ちてきて空がすみれ色に染まっていく。数十キロ景色が変わらないことにはもう慣れてきた。ひたすら一直線に丘陵をつらぬく道路を走り続け、マタワのPC。
 マタワマタワマタワー、いつまでもマーターワ、と歌うが誰も反応してくれない。
 テントが設営してある。スタッフにブルベカードを渡してサインをもらう。そのときに、彼が持っていた名簿をちらりと見る。ほとんどは埋まっている。みんな速いなあ………。さて、あと70km弱だ。走る前まで初日が一番長距離と思っていたけど、実は二日目が最長距離。それも気を滅入らせているけど、今日が一番”登らない”日、というのも滅入らせている別の要因。一番登らない日でこんなにくたびれているのか僕は。そして一番滅入るのは、明日も明後日も走らなくては行けないという事実。ファクト。うんざり。自転車乗るのキライ。



 風向きは北からのものに変わっている。マシュー君のリカンベントにくっついて、少しでも風をしのぐ。
 午後九時。日はほとんど沈み、残り50キロ。残念なことにずっと登りだ。
 川面に映るわずかな残り陽を見ていると、なんだか視界を大粒の雪のようなものが覆い始める。ってなんだ、これ? 灰? いや、ちがうな……。
 蛾だ。
 無数の小さい蛾が雪のように乱舞している。それらが北風にのって僕らの体といい顔といい、すべての場所にぶつかってくるのだ。これはひどい。口を開けていると、その小さな蛾がバタバタ突っ込んでくる。首に巻いていたウォーマーで口を覆うようにして走る。マシュー君は途中でうんざりしたのか停止して、体にくっついた蛾を払う。なんなんだ、これは。やはり墨子の罠としか思えない。もうどうにでもしてくれ……。



 鉄塔のあるキツ目の坂を上がる。夜の闇。I氏と僕、そしてリカンベント二台で走り続ける。ああ、何時間眠ることができるんだろう? また明日も走らなけりゃならないんだよな……。 すっ飛んでいくパトカー。どこまでも一直線に続く道。おっかけてくる放し飼いの犬。このたった65kmの区間に4時間半もの時間を費やしてしまった。たぶん、食べる量が足りてないのも一因なのだろう。特に一日の後半になると、胃腸が弱いので食欲がなくなってくる。それで食べなくなり水も飲まなくなる。これがよくない。よくないのはわかっているのだけど……。



 ようやくクインシーのPCにたどり着いたのは午前一時。さっさと食べて、眠らないと。ああ、まずはS&S継手を締める工具を探さないとな……。それに足首もやばい感じがしている。もし工具がなければ、心が折れるかもしれない。

つづく

Cascade1200km 第二話

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※Cascade1200全体コース(色違いの部分は2008年コースなど)

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※1日目プロフィール

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※2日目プロフィール



 複数日に渡るブルベの場合、睡眠時間を取れば取るほど翌日の余裕時間を奪うことになる。それを勘案にいれて起床時間を決める。まあ、もともと普通は問題にはならない。というのも、ブルベのスタート時点を考えてみれば、余裕時間はゼロだからだ。走っていれば、余裕時間は積み上がっていくはず。それが普通の場合の考えかた。ちょっとやっかいなのは、余裕時間がゼロなのに、その先がずっと登りだったりする場合。そしてその登りのてっぺんがPCだったりする場合だ。ナチェスから73km先のロッジポールのコントロールがまさにそれだった。70km以上に渡る登りの先にPCが設定されているのだ。とはいえ、斜度はかなり緩いので最低速度として設定されている時速13.3kmを下回ることはあるまいと思っていた。この速度を超えていれば、貯金が溜まっていく。そう思っていた時期が僕にもありました。


 恐るべき向かい風。
 平坦部分でも15kmを切ってしまう。ときに突風に煽られると時速10kmを割ってしまうことさえ。谷間に入り、いよいよ風が強くなってくると、タイムアウトの文字が脳裏をよぎる。そんなのあるのか? ありえるのか? 風は強まったり弱まったりという変化は多少はあるものの、とにかくきつい。僕を追い抜いていく人もいるが、たまには脱落してくる人を追い抜くこともあった。あるとき、三人組の先頭が、僕を追い抜きざまに「後ろにつけ」と手振りで示した。ありがたく後ろにつかせてもらう。この三人のうち二人はとてつもなく強く、一人はもうダメなようだ。僕に手を振ったサイクリストがひきつづけ、やがて下がると次のライダーはすぐに減速してしまって立ち漕ぎをしてもどうしようもならない。すぐに三人目が先頭にたった。僕がその次。彼もずいぶん長く牽いてくれて、やがて先頭をはずれた。なんとか頑張ってヘタれないように速度があまり落ちないように先頭を走るが、やはり強い二人ほどは速度を保てそうにない。ニキロほどを走って、脇にずれて先頭を譲る。
 それでも、後ろに入るよう手招きしてくれたサイクリストは僕の肩を「よくやった」とでも言うようにポンポンと叩いてくれる。すごい嬉しい。そしてなんというかっこ良さ。僕もこういうことがさり気なくできるような人間になりたい……。

 残念ながら、このかっこいい集団は他の集団が追い上げてきて再編成されてしまった。速い連中とそうでない連中。そして、それにさえ追いつけない僕とかに。幸いなことに風は弱まってきていたけど、代わりに斜度が上がってくる。景色もさっきまでよりずっと森っぽい。まあ、そういう景色は昨日で見飽きたんだけど。



 へたれながらも一人で寂しく登っていると、脇をでっかいピックアップトラックがやってきて、何やらおっさんが顔を真赤にして怒鳴りまくってくる。どうも、てめえらクソ自転車乗りがなんの権限があって、ハイウェイを走ってやがるんだ、ってことらしい。なんという肝っ玉の小ささ。こんな広くってほとんどクルマの通らないような道を、早朝いくらか自転車が走っているくらいでわーわー喚いてくるとは。ダサすぎ。しかも一人で走ってる外国人に怒鳴ってどうするんだよ。集団に怒鳴ってけよ。バーカバーカ、と思ったけど何も言わず無表情でやり過ごすことにした。
 なんか変に反応してぶつけられたり、あるいは撃たれたりしてもつまらない。
 というか、外国語でなんか言われても腹がたったりしないんだよね、やっぱり。リアリティがない。これが日本語で言われたんなら「うわ、ダセエ」って表情に出ちゃうけど、英語でまくし立てられてもヒアリングの練習みたいな気分になっちゃう。おっさん、怒鳴る相手を間違えたな。



※PC6 Lodgepole 403.5km Mark Thomas氏にカップヌードルを作ってもらう。

 日本人女性参加者に追いつく。もうお一方はすでに昨日DNFを決められたと知った。彼女自身もタイムリミットの違う1000km部門参加なので、このまま行けばタイムアウトなのだそうだ。今回このカスケイドは1000km(+200km)と1200kmが同時開催されている。それぞれ違う基準でタイムアウトが設定されている。1000kmの方は600kmまで15km/h平均、それ以降は11km/h程度になる。1200kmの方は既に記したように13.3km/h基準。どっちのほうが厳しいというわけではないけど、彼女にとっては1200km組の余裕時間が恨めしいだろうな、と思った。
 しばらく走っているとマシュー君も一緒になった。やっぱり誰かと一緒に走っていると、目も覚めるし時間の経つのも早い。頂上に近づくと斜度のある(それでも6%は超えない程度の)アップダウンが続いたけど、ようやっとロッジポールのPCへ到着。ここではRUSA現会長のマーク・トーマス氏が自らサービスを設営していて、みんなにコーヒーなどを振舞っていた。彼のクルマにつまれたキャリアボックスには、完走した1200kmブルベのステッカーが所狭しと貼ってあって、そのかずは……たぶん二十を超えるくらい。今年も既にニュージーランドのキウイライド1200、韓国1200を完走しているおそろるべき1200ハンターだ。脚力もすごいが、資力もすごく、若くして半引退状態ながらいくつものバイクショップを経営しているという……。

 さきほどの日本人女性参加者がやってきて、スタッフにタイムアウトしたことを告げている。スタッフはこの次のPCまでずっと戻っていくので下りだし、そこのタイムアウトに間に合えばOKとすると説明したのだけど、残念ながら走行継続を断念。あまり眠れなかったというので、下りも危険を感じるという。止むなし。



 さて、ここでもカップヌードルをいただきポテトチップスもいただいてくつろいでいたら、I氏も追いついてきた。いつもどおり元気そうだ。そういうわけで、三人で下りていくことになった。ずっと下り基調なので、リカンベントのマシュー君が速い速い。というか、ここまでの登りでさえ僕より速かったのだから、下りなんかとてもじゃないけど追いつけない。あれにおいつくにはタンデムでないと……と思うけど、うちの夫婦のタンデムでは登りがいかんともしがたいだろうな。I氏はところどころで写真を撮っているようだ。景色がつまらないとずっとこぼしていたけど、ようやっと天候も回復し、西部らしい光景がちょくちょく現れるので、写真をとる気になったのだろう。
 次のフルーツビルのPCまで70kmほどは登ってきた道をだいたいトレースする。一部で裏道に入るところがあって、行きの道を戻るだけでショートカットできるじゃん、ここにはシークレットがあるぞ、と思っていたのだけど無かった。そして気付かずショートカットした人たちも少なくないようだ。
 まあ、わざわざ1200kmを走るような人種にとってはむしろ「損した」ようなものだから、別にどうでもいいのか。まあ、レースでもないしそれで得することもないからね。




※雨の西側から、乾燥の東側へ。ここからは日差しを遮るものは期待できません。


※Nachesのオールド・タウンかな。



 フルーツビルまでもアップダウンと向かい風に悩まされるものの、全体として下り基調。シアトル・インターナショナル・ランドナーのメンバーたち数人とゆるやかなグループとなって走った。やがてちぎれてしまったけど、そこがPC。フルーツビルにあるショッピングモール。その中のスターバックスでサインを貰えという。
 果たしてスターバックスでカフェラテを頼んでサインをもらう。店外のテーブルでそれを飲んでから、フレッドマイヤーという大型スーパーでランチを探すことにした。パニーニか、ホットドッグかなあ、と思って入るとすぐにSUSHIが目についた。棚を覗きこんでみると、いわゆる西海岸風ロールが多いのだけど、普通の握りと巻きものが入っているパックもあった。サーモンの握りと鉄火巻だったかな。それにコーラを購入して席へ戻る。ブルベ中、しかもアメリカの内陸部で寿司ってどうよ? と面白がっていたらI氏も寿司であった。やっぱり、なんか食べたくなっちゃうんですよねー。
 寿司は普通においしい。これでリフレッシュして次は100km以上先のマタワ。大きな上り下りのあるセクション。しかも、大西部の乾燥した荒野。景色的にもコース的にも気温的にも距離的にも過酷なものが待っているだろう。それでも、そこまでたどり着けば600km。半分が終わるんだ。


※フルーツビルのバイクパスから。やっぱりサイクリングロードは整備が微妙。どこも同じ。

 フルーツビルから川沿いのサイクリングロードをしばらく走って、州道26号線へ。もう景色はすっかり大荒野。日本人的な感覚では砂漠といっても差し支えないくらいの土地だ。サハラのような砂砂漠ではないけど、色調的には似たような感じ(サンディエゴの内陸の方へ行けば、サハラのような砂砂漠を走ることもできる)。行きの飛行機の中で映画の「茄子」を見てきたので、アンダルシアの歌を口ずさんで走る。ほんとうにあんな感じの大地だ。
 そこにコロラド川から引っ張ってきた水を使って色々な栽培をしていて、こんな風景にも関わらず、ここはフルーツの一大産地。とあるアメリカ人ライダーの目には緑豊かな大地に映るのだという。住んでいるところでずいぶん感性も変わってくるものだ。
 I氏と両脇で栽培されている大きなつる性植物は一体なんだろう、と話しているとカナダ人ライダーがやってきて「お前らビールは好きか? 」と聞いてくる。唐突な質問にふたりそれぞれ適当に返していると「あれがホップだ! 」と言う。なんと、あれがホップなのか。初めて見た……。でもどうやって使うのかはわからない。彼も知らないという。種を使うんじゃねーかな、とのこと。まあいいや。


※ホップ畑。比較対象物がないのでわかりにくいですが、この支柱はゆうに5メートルはあります。

つづく