走りだしてしばらく、強い追い風と一直線の道路のおかげで調子にのって飛び出して40km/hでクルクル回し続ける。特に息も上がらずこのペースを維持できる追い風の力ってすごい。12kmほどをあっという間に走りきって118号線へ。さらにゆるやかに道は登り続けていくけれど、速度に影響するようなものではない。やがて、日が落ちる頃に道も下りに転じた。
それでも、ここまでのだらだら上りでずいぶん脚を食われてしまったメンバーもいるようだった。
日が落ちる、それだけでもメンタルに与える影響は大きく、それがさらに肉体的ポテンシャルに及ぼすダメージは強い。さらに気温の低下。ここまでの走行距離だって、常識的に考えればありえないほど。これらが積み重なった疲労が、だんだんと表面化してくるころだ。
東北最南端の駅「矢祭山」でトイレ休憩を入れた。もうずいぶんコンビニなんかを見かけてないな。商店すら稀だ。矢祭山駅の向かいには、ひなびたドライブインがあったのだけど、休憩している間に店を閉めてしまった。
もう少し進むんで久々に見かけたコンビニでも休む。ここまで来ると、下り基調で速度は出ているんだけど、休憩もとっているので平均速度は思うほどには改善しない。少しづつ、疲労が見えてきたメンバーも出てきた。一旦、気分をリセットして脚を多めに休めるためにもここらで大休憩を入れたい。けれど、休憩の予定を入れている常陸大宮の境界標識がでてから、ずいぶんと長く走らされる。そういうのも、疲れがたまったメンバーには精神的に重くなってくるだろう。やがてみつけたココスへはいって、みんなでがっつり食事をした。僕はハンバーグとピザ。他のメンバーも思い思いにがっつりいく。
事前の考えでは、ここでの仮眠もありうるかと思っていたけれど、まだ(到着時)九時にもなっていないし、どうもみんな眠くはなさそう。このあとのPC(40km先)の次のPC(その50km先)がミニストップということなので、そこまで行って仮眠となるか。ということは、だいたい午前二時くらいから少し休めるかな? そんなにスムーズにいくのかな?
ココスから外へ出ると……寒いッ! 立っているだけだと震えが来る。
これはまずいと、のこり40kmを下り基調と満腹に任せてペダルを踏み倒すことにする。程なくして那珂湊。海が近いはずなんだけど、夜中なのでよくわからない。次は霞ヶ浦沿いのミニストップ。午前二時くらいに到着すれば、一時間くらいの仮眠を入れよう。
と思ったけど、結局到着は午前二時半くらいだったろうか。原因はまず、パンク。それから疲労によるスピードダウン。あとは、この区間は意外とアップダウンがあってミニビーフラインのようだったこと、などだろうか。この次のPCは20kmほどだったと思う。そしてそこには午前五時には到着しているべき。ということはこの時点で(休憩を考えずに)二時間半ほどある。さて、またここで考えるわけだ。この区間のペースがあまりよろしくなかった。この先のコースも似たようにアップダウンがあると、下手すれば平均20km/hのペースを守れるかさえ危うい。
休むか……休まざるか……。
だけど、せっかくのミニストップ。
みんなも休憩を期待しているはず。なにしろ外気温はとっくに氷点下。暖かい場所で休みたい。
そこで到着直前に三時十五分までの休憩を宣言して店内に入る。
椅子に座って食事を取り、おしゃべりなどでせっかくの仮眠時間をふいにしないようにとさっさと目を瞑る。
特に眠かったつもりはなかったのだけど、けっこうサクッと眠りに落ちたようだ。
携帯のアラームに起こされる。チームのみんなもそれぞれ軽く睡眠をとれたようだ。少なくとも休めただろう。とにかく本格的に眠くなる前に寝ておく。頭はすっきりするし、食事の消化時間にもなる。しばらくは脚が回るのではないか。コンビニから外へ出ると、いよいよ空気は冷えきっていて、ただでさえ寒がりの僕はハンドルをまっすぐ保持するのさえ辛い。蛇行するわけではなくって、ただガタガタと震えが伝わってしまうだけだけど。
ほんのちょっとした下り坂が、体温を著しく奪い取る。寒い。泣きたい。
利根川を渡るとそこは千葉。宮城から福島、茨城と駆け抜けてきて最後の県に入った。このまま利根川沿いを走り続ければいいだけ……。ちょっと田んぼの畦道なんかで道を迷いつつも、午前四時過ぎには最後のPCにたどり着いた。二十二時間目チェックまで少し間がある。と、見渡せばちょうど向かいにファミリーレストランのジョイフルがあった。ここでコーヒーでも飲んで体を暖めつつ、仮眠をとろうと提案する。もちろん、受け入れられた。
三十分ほどの仮眠(先ほどの二十分程度の仮眠と会わせて五十分。けっこう仮眠をとれたほうだと思う)を開けて外へ出ると、すみれ色の空が近づいている。地平線がオレンジがかってきた。残り距離は28km。残り時間は二時間。寒さは相変わらずだけど、このまま日が上がってくれば体は温かく熱せられる。天気もいい。もはや何の懸念もない。さて、行きましょうかね。
日の出が水面に映る。
その太陽へ向かって走り続ける僕ら五人。
それぞれがどんな思いを抱えて走っているのかは知らない。
でも、きっともう楽しいだけだ。
いや、僕はさっさと終わって欲しいといつも思っているけど。
一晩走り続けてきた目には強すぎるほどの朝の陽光の中を、人通りのない道をうねるように走る。やがて唐突に銚子の市街へ入った。そのまま最終PCのセブンイレブンへ入る。ちょっとした脱力感。まだ三十分ほどタイムリミットには余裕があった。ハイチューを買ってレシートをゲット。すると、そこに今回は参加できなかった方々がお迎えということでやってきた。これはサプライズ。もうこれ以上フレッシュとして走る必要はないので、しばし歓談。それから集合場所である犬吠埼の旅館へ移動する。
すでに、そしてこれからも続々と各地からのフレッシュチームが集まってくるナイスプレイスへ。
ナイスなサイクリスト達と。