
「グルッとまるごと栄村100kmサイクリング」はその暢気なタイトルとはかけ離れたハードなコース設定とタフな気象条件で知られるライド。長野と新潟の県境という山また山の中を縫うような林道を登るか下るかしかないルートと、夏真っ盛りの気温が参加者の精神を打ち砕かんと待ち受けている。その一方で、その名にふさわしい地元の方々の人情あふれる私設エイドや応援、おいしさあふれる果物や野菜などの補給食の提供など他にはなかなか見られない特色。この硬軟両方の特徴が実によいバランスで成り立っている。
さて、そんな牧歌的山岳サイクリングにタンデム自転車で参加したというのは前回記した通り。そして激坂オプションには行きませんでしたが(もっと重要な任務があったので)、完走を果たしました。激坂オプション無しでも15%くらいの坂まではあったようなので、フツーに考えると十分激坂でしょう。余談ですが、私たちのタンデム自転車はスポーツ自転車ではありますが、純然たるロードと比肩しうるものではありません。キャリア取り付けダボ、フェンダー取付基部があり(実際にリアキャリアは装着しています)、フレームは鉄。それだけで1kgほどの重量であるドラムブレーキをドラッグブレーキとして装着。28cのぶっといタイヤに34本スポーク・・・と、言ってみればツーリングとかいう類の自転車に相当します。ロードレーサーと並ぶにはカーボンやチタンハイブリッドのタンデムになるでしょうが、ほとんどの都道府県で走ることが出来ない現状なのに、そういうのを購入する人はなかなかいないでしょうね。
とまあ、あんまりこういった坂を登るため(?)のコースにむいた自転車では無い上に、乗り手もキャプテン(前席)側は多少乗り込んで入るものの、けして剛脚とは言えない私。そしてストーカー(後席)側は年に10回も自転車に乗るか怪しい細君。タンデム自転車自体、購入してまだ1年。米国滞在中にはそこそこ乗っていましたが、特に訓練や追い込んだ練習などしていません。ちょっとナーバス。そんなことをいちいち書いているのは、このレポートが一般的なスポーツタンデムに乗る一般的なサイクリストのものだということを示したいからです。つまり機会さえあれば誰にでも楽しむことができ、むしろ楽しみを広げることができるものだということです。とはいえ、この栄村のコースは厳しいもので私自身にとってもタンデム自転車の乗り方を試されるものであり、私たちのタンデム自転車(以下:さくら号)そのものの能力を試されるものでもありました。そういったことを栄村のイベント紹介に交えて書いていきたいと思います・・・。
スタートは栄村のスキー場。受付を済ませて僕らの自転車を組立てて本部前へ移動。ここはスタートのゲートからはずいぶん離れているのですが、特に急ぐ旅でも無し。しばらくは道幅もあるゆるやかな下り坂が続きます。ゴンゴンと走りきり、そのまま第一レストストップへ。こっから登りっぽいので仲間たちより先にスタートしますが、次のレストストップからはまとまって走るようにしました。ちなみに私設・公設すべてのレストストップに止まり、エイドに置かれた様々な食べ物を楽しまなくてはならないという鉄のオキテがありました。

序盤のコースでは何も問題無し。10%を超えるような坂を心配していましたが、それで問題になるようなことはありませんでした。ただそういった斜度のある場所での坂道発進はやっぱり少々怖いので、もしそうせざるを得ない場面があったとしてもできるだけ斜度のゆるい場所まで移動してからスタートしたほうがいいかも。またロード系クリートの滑りやすさも怖さを助長している部分があるので、SPDとかの方が気楽かもしれません。まあ、それはタンデムに限った話ではないのですが、狭い坂道でクルマが上から来たときにさっと足を付きやすく、斜度のゆるいコーナー外側へひっぱって再スタートなどという場合には普通の靴に近いほうがいいなあと感じます。
中盤では細く曲がりくねって見通しの厳しい斜度のある下り坂が多く、下りが不得手である私にとってはそれだけで恐怖。よく言われる「小回り」の問題はまったく感じませんでしたが、斜度がつくとスッ!と加速していくので注意が必要です。ここで初めて私のタンデム自転車に装備されている「ドラッグブレーキ」が大活躍しました。通常自転車には前後ふたつのブレーキがついていますが、多くのスポーツタンデム自転車や一部の長距離ツーリング自転車には第三のブレーキが装着されていることがあります。私の自転車の場合にはARAIのドラムブレーキが。自転車によってはディスクブレーキなどがその役割で用いられます。

※ドラムブレーキ
参考:タンデム車とブレーキ
http://www003.upp.so-net.ne.jp/hirotakz/bike/ab_tandem4.html
自転車のブレーキは摩擦によって減速を行うわけですが、当然「摩擦熱」が発生します。これは重量があればあるほど急激に熱を発するので、一般的なリムブレーキでは加熱によって故障やパンクが引き起こされる場合があります。下り坂でこのような現象が発生すると大変危険ですので、ホイールに負担をかけない第三のブレーキが登場するわけです。さくら号では後輪にドラムブレーキを装着し、それをハンドルエンドにとりつけたシフターによって引くことが出来ます。ケーブルを引きっぱなしにして固定できるので、長い坂でも加速を抑えたまま進むことが出来、なおかつ前後ブレーキを同時に利用することができます。
今回の栄村ではしばしばこのドラッグブレーキを引きっぱなしにして、さらに急なコーナーがある場合には通常のブレーキを使うという場面が現れました。ドラッグブレーキを強くかけっぱなしでも前を行くたいていのロードバイクよりも”落下速度”が速いので気を使いました。購入したアメリカでも日本に帰国後でも全然この装置を使うことはなかったので、一般的にはいらんもんかな、と思っていましたが今回はあって助かりましたね・・・。ずいぶん楽できました。

折り返し地点近くに団子屋さん。帰路に立ちよってトチ餅を購入。冷やしてあるのですがとても柔らかく、かつかみきりやすい。実においしく食べやすいトチ餅でした。一個と言わずいくつか買っておけばよかった・・・。次回は串団子にもトライしてみよう。
折り返しと言っても往路と復路は違い、復路の方が短くなっています。またある程度以上の時間で関門を通過するとオプションコースへ入ることもできます。今回は食ったり食ったり食ったりしてたので数分の遅れでオプションコースへは入ることが出来ませんでした・・・。まあ、激坂オプションだそうなので行けなくてほっとしたというか・・・。
年によってはカンカン照りで暑さに苦しめられるという話なのですが、今年は厚い雲が空を覆っていて気温も30度に達せず調度良い感じ。一番の高所でだいたい25度くらいだったとか。雨も降らず路面もほとんど乾いていて安心。ところどころ湧き水が路上に流れ出ているところがあるくらい。最後の方の下りで路面の荒れに後輪がはじかれてちょっと驚く場面もありました。その場で転倒の危険などは感じ無かったのですが、何らかのメカニカルトラブルかパンクかとしばし緊張が走りました。なにしろこんなに長いことドラッグブレーキを引いて走ったことなんかなかったので、タイヤやブレーキ、ワイアにかかる負担がどんなものになるのか見当もつきません。
送信者 Gurutto Marugoto Sakaemura 110km |
そうこうしているうちにイベントも終盤。「学問の橋」なる吊り橋を渡ったあたりからそこまでとは雰囲気がかわってひらけた景色に。田んぼの中をつっきる気持ちの良い直線的な道があって、少し登ると最後のエイドを見下ろすような峠の鞍部から一気に下りていきます。最後のエイドにはトマトやふかしじゃがいもなどが用意されていて、ここでもしっかり食べることを楽しみます。
一番最後はスキー場までの登り。路肩で応援をしてくれている地元の方々は朝からずっと行き過ぎるサイクリストに手を振り続けてくれているのでしょうか。ありがたいことです・・・。ゴールもまとまってゲートを潜り・・・村長さんやスタッフの方々がゴールした人たち一人ひとりの首に木製のメダルをかけてくれます。それとくじびきをさせてくれて・・・ふたりとも「野菜セット」が当たりました!野菜はおいしくいただいております。
というわけで仲間たちと共にしっかり楽しませていただきました「グルッとまるごと栄村」。あーやっぱりタンデムはいいなあ。こうなると先週の中央構造線サイクリングが道路崩壊で中止になったのは返す返すも残念・・・。
