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【落武者魂】 10 Hokkaido1200km
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落武者魂

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北海道1200km 「男たちはふたたび北へ」-5

 ずいぶん間があいてしまった。どうもこのライドの最後の方はざんざんと降る雨と暗闇と孤独とでだれすぎてしまったのと、こういったわけのわからない極限状態でのズレたアホ話というのはどうにも伝わらないので・・・なんだかだらだら長くなってしまって書いててもちっとも面白く無い。でも、終わらせましょうか・・・。

 さて、北海道を走っていて不思議なのは、走行しているのになぜかいつのまにか蜘蛛の糸が張られていることだった。ふと気づくとハンドルのあたりやヘッドチューブのあたりに蜘蛛の糸がすいっとかかっている。そのたんびに振り払うのだけど、しばらくするとやっぱり蜘蛛の糸が。もし気づかず放置していたら蜘蛛の巣が完成されちゃったりするのだろうか。あるいは糸をひいて空中を移動する類の蜘蛛をひっかっけているだけなのか。いずれにせよ頻度が高い気がする。

 というような他愛も無い話をzucchaさんとしながら北上する。明らかな南風?つまり追い風で進むのには苦もない。もう残り距離も100km程度となって完走は時間の問題。そう、単なる時間経過を待つだけの話だ。ブルベはなんというか「追い込む走り」をすることもなく、さりとて景色や何かに楽しみを見出していることもない状態の退屈さに耐えることが最大の困難なんじゃないかとか。いかにしてこの退屈をしのぐか、そういうアイテムが必要だとか。そういうとりとめもないアホな話をしつづけていると、なぜか小さい羽虫が無限に湧き出すエリアに突入。しばし閉口・・・文字通り。よく夏の頃に蚊柱がたっているところをつっきることがあるけど、これはそのスケールアップ版。雨交じりで小さい虫がコンコンと全身にあたってくる。うんざり。

 そして雨がぱらぱらと・・・。そんなだらけた雰囲気の中でふとあることに気づく。GPSが表示している速度はなんと15km/h以下。人によっては追い風を活かして40km/hで走り続けたというこの道路を15km/h。いやいや、ふと見ると14km/h・・・しまいには13km/h台にまで・・・。「おいおいこれはまずいんじゃないの?」と言うと「考えてくださいよ、さとうさん。ここには信号がない。つまりそれって・・・」ピンときた。「なるほど東京換算なら信号がたくさんあるから20km/h弱出ているってことになるな!」「そのとおり!全然問題ない!」なるほど、そのとおりだ。問題がないことがわかったのでダラダラ走行はさらにグレードアップ。たらたらたらたらたら・・・・。



 夜になると雨は本降りになってくるようだ。ざーざーという音が聞こえてきそうな降りっぷり。札幌都市圏に近づいたのか、交通量も多くなってきたところでzucchaさんがコンビニへ離脱。ひとりになったのでつまんないしさっさと帰ることにする。細君にゴール予想時刻を伝えてあるので、できるかぎりその時間に遅れないようにしないとならない。雨がざんざん降ってくるが気にしない。ただ内臓の調子がおかしいので次のPCでは何も食うまいということだけを決める。最後のPCでは二人ほどの参加者と一緒になるが、ばらばらで走りだした。残り距離は50kmも無いはず。2?3時間あればゴールできるかな・・・。



 雨は降り続く。道は交通量の多い幹線道路をはずれ静かな郊外の道路になったようだ。もはや真っ暗でここがどんなところなのだかわからない。そしてここで眠気が襲ってくる。クルマもめったに通らない整備された直線道路ということで緊張が保てないらしい。時折歩くような速度にまでなって、まぶたがくっついてしまったり。そういうときは道の端によせて自転車にまたがったまま少し眼を閉じて休む。雨に打たれながらだけども、冷たい雨ではないから心地良い。さぁーっという雨の音だけがあたりを包んでいる。誰かが僕を追い越していって、少し目が覚めた。そうだよね、ここでリキ入れればゴールは近いのに・・・。でもその一息の力が絞り出せない。自分ひとりという状況だから、いくらでも自分に甘えてしまうのだ・・・。



 やがて・・・見覚えのある場所についた。スタートからしばらくした地点、石狩川に通ずる道路だ。ということは札幌に通ずる道。心の力がすこしばかり回復し、ロードレーサーっぽい速度へと加速し始める。雨に包まれた夜の風景はどこか幻想的で、後ろへ過ぎ去っていく街灯はまばゆい。そういえば雨の中ゴールしたことって無い気がするなあ・・・。雨の中ゴールだと片付けが面倒くさそうだなあ、と実務的なことを考えたり。だって、自転車をしまわなくちゃなんないけど、車内積み込みだし、濡れた体でクルマに乗るこまなきゃならないし・・・。クリートには泥がつまるだろうしぐだぐだぐだ。道はモエレ公園へ入り・・・はいろうとした入り口は夜間閉鎖されていて、スタッフの人にとなりの歩道側から入るよう誘導された。以前と同じようにゴールを動画として撮影していたのだけど、なにせ一人なので面白みがないなあ・・・そして・・・ゴールした。

 ゴールには休憩用の天幕と、手続き用の大型車が置かれていてまず手続きを済ませる。それからスタッフの集う天幕へ向かいフグバッグから羊羹を取り出してみなさんで分けてくださいとテーブルへ。いやー羊羹は密度が高いから重いんだよね・・・石の板みたいなものだものだ。さらに自宅へおみやげ用としても買い込んでいたからかなりヘヴィだった。でもとってもおいしくいただきました。八木菓子舗の三石羊羹http://www.mitsuishi-youkan.com/です。日高へお立ち寄りの際はぜひお試しください。
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北海道1200km 「男たちはしばらく西へ」-4

 4時間きっかり寝て、ゆったりと準備をし宿をでたのは朝5時ごろ。予定では3時ごろに出立だったのだけどな。なんだか夜半に雨が降っていたようだけど、ほとんど上がっているようだった。一応防寒も兼ねてレインジャケットだけ着こみ、チェーンオイルを塗りなおして走りだす。すると雨の勢いが強くなってくる。まいったね・・・。まあ、残りは330kmくらいかな。もうだいたい終わりという空気が流れ出す。途中で仮眠所で休んでいたのであろうMarkが追い上げてきてしばらくつかず離れずな感じで走り続ける。しっかり寝ているはずなんだけど、回復したという気はしない。消化器系が弱いつうことなんだろうね・・・。回復力の高い人がうらやましい。ねたましい・・・。機械の星にいったら鋼鉄の内臓をもらえるだろうか?どこにあるの、機械の星・・・。

 雨にけぶる十勝港を過ぎると久々の海岸線。やっぱり向かい風のまんま。これは襟裳岬まで行けば追い風になるはずなんだけどなあ・・・と思うのだけど早朝のTVでみた風向き図はあまり良い予想をしていなかった。おそらく襟裳岬の西側では山塊にあたった風が山にそって流れているので結局襟裳岬へ向けての風向きとなるのだろう。これは日高を過ぎるまでは諦めたほうがよさそうだ。そして明柄の良い僕は海岸線で風が強く吹いているのを確認すると同時に減速。Markは僕を置いていってしまったので一人旅・・・。



 ほとんど交通量のない道路が続く。この海はオホーツク?太平洋?いずれにしろなんとなく淋しげな海だ。その寂寞とした道に時折モダンな長大トンネルが設置されている。ちょっと景色に似つかわしくないくらいの施設。こんなところにこんな立派なトンネルが必要なのかと思うくらいの。そう、ここは「金の延べ棒を敷き詰めて舗装された」とまで揶揄される莫大な予算を投じて建設された道路なのだ。そのなも「黄金道路」。向かい風で苦しんでいたら、道から離れた高台になにか石碑が見えたので自転車を運びあげてみると・・・あの有名な「黄金道路」の碑。



 そして全くと言っていいほどクルマが通らない。走りやすくっていいんだけど複雑な気持ち。時折小さな寒村が浜辺へ取り付くように見つかって、崩れ落ちそうな木の塀に「神はすぐ来る」と。神はすぐに来るのかもしれない。でもそれはここではないと思わせるようなもうひとつの最果ての景色。さすが別名「最果て1200km」。



 襟裳岬へ近づくと常日頃から吹く強風のせいか大きな木がまったく見られなくなる。笹の原っぱを吹き抜けてくる風が容赦なく速度を奪い、海霧がじっとりと体を包む。霞んで見える海岸線のむこうにひときわ濃い霧が立ち上がる場所が見える。それが遠くに霧けぶる襟裳岬。なまじっかみえてるというのがさらに気持ちを辛くさせるなあ。なんで笑ってるんだろう?オレ。


※AJH撮影

 しまいには視界が遮られるような霧になって、そこが襟裳岬のPCになっていた。駐車場の端っこにスタッフの方々が控えてくれていた。さっきからコーンラーメンが食いたいんですが、と聞くと、そこでラーメンは食えるがこのあたりはつぶラーメンかなあとのこと。おみやげ屋さんに併設された食堂に入り「つぶラーメンをひとつ」と伝え、「ところでつぶって何ですか?」と聞いてみる。実は知らなかったのだ。

 つぶとはつぶ貝のことらしい。よくわからないが、ラーメンはおみやげ屋さんとして(悪い方に)期待していたほどではなく、普通の味。美味しくいただく。休憩していたスタッフの人に「かなり休んだし今回のペースは速いので、もう後ろには人が少ないんじゃないですか?」と質問すると「いやいや14番目でしたよ」とのこと。14番目?トップはゴールしたとかしないとかなのに?うーん、どうやら「すごく速い人々」が10人くらいいて「ゆっくりタイムアウトまで楽しむ人」がたくさんいて、その間にちらほらとまばらな参加者が走っている、という具合らしい。そのちらほらに入っているので、あんまり人に会わないのだ。もしかしたら実はこのブルベは何らかの理由でキャンセルされていて、それを知らない僕ら数人が走っているのではないかと思えたほどだ。


※AJH撮影

 襟裳岬を出ても予想通り向かい風が続く。しかもけっこうな角度のアップダウン。そして悪いことに眠気までが襲ってきた。うーんにゃむにゃむ・・・。消化器系がへたれているようでトイレにも行きたくなったのでコンビニへ流れこみ、少し休んで再発進。列島縦断マラソン中!というのぼりをあげて荷物を積んだ手押しクルマを押す男性をみかけた。反射ベストにジャージっぽい姿なので「もしかして手押し車を車両として参加した人がいるのか!?」とも思ったけど、そうではなさそう。話を聞いてみようかとも思ったけど、眠くてダメ。



 ・・・。日高へ近づくにつれ、ようやっと脚が回り始める・・・ようなそうでもないような。相変わらず海岸ぺりの道。黄金道路とは違って、交通量は少なくない。トラックも多いのでちょっとストレスフル。胃腸を気遣いつつも何か食いたいなあと思っていたら、なんだか小奇麗なお店を三石でみつけた。久しぶりに自転車から下りてお店へ入ると、創業100年の羊羹屋さんだとのこと。せっかくなので自宅へおみやげの羊羹セットと、なんだかもう終わりな気分がしていたのでスタッフの方々にもと羊羹をたくさん買い込む。するとフグバック通常モードには入り切らなくなったので、マチを広げるモードを発動。お店の方にイオン水なんかももらって、さあ日高へ急ごう!



 日高のPCはマドレーヌ一個だけ。なぜならマクドナルドの看板が見えていたから。椅子に座って飯を食うゾーと走り出したら・・・なんと7月31日グランドオープンですと?僕のご飯・・・。と走っていたが日高の街は一般的な郊外の街で、ショッピングセンターもありモスバーガーもあった。モスバーガーでしばし休憩し、発進。すぐにトイレに行きたくなり・・・もうこれから何も食わねーぞと決める。下痢ってわけじゃないのよ、今回も。

 コンビニ風酒屋でトイレを借りて(残念ながら和式)、リポビタンDを飲んで残り150km行きましょうよと。のたのた夕日を見ながら走っているとなぜだかz氏がやってきた。ようやく海岸からコースはそれて待ちに待った追い風。二人で増速して・・・コンビニ休憩。z氏が「僕はもうへたれ走りです」というので「望むところです」と答えた。そして妻に「12時頃ゴール」とメールして迎えにきてもらえるよう手配した。



 さあて次のPCまで100kmもない。二人で追い風の中走ればあっという間だろ、常識的に考えて。

 だが、この人(誰?)に常識は通用するわけはなかったのであった・・・。

まだ続く・・・。

北海道1200km 「男たちはもっと南へ」-3



 雄武にたどり着いたのは日の出の直前、予定時刻より1時間早くついた。1時間弱早くでているから当然なのだけど。雄武のセイコーマートでくつろいでいると、実はここはPCでは無いときかされる。どうも新しい版のキューシートで変更されたのだという。そこで走りだしてみると、1km程先にスタッフの方が待っているコンビニがあってそこが本当のPCだった。危ない危ない。



 PCをでてオホーツク海まで見通せる場所では上がったばかりの太陽が燦々と輝き海面を照らしていた。素晴らしい光景。オホーツクの夜明けだ。感動、感動・・・ちくしょう!いつまでこのオホーツク街道は続くんじゃい!しかも日が昇るとともに風も出てきたようだし・・・しかも5時間以上寝たのになんだか眠くなってきたし・・・。くわーっ!直線続きすぎ!追い風カムバックプリーズ!



 湧別の街でようやくオホーツク海とさようなら。本当はサロマ湖も余裕があれば観に行こうと思っていたのだけど、もうこのオホーツク街道には関わりたくない。まっぴらごめんだおさらばさいさいと右折すると、風に真っ向対決する形に・・・。みかけたセブンイレブンに倒れこみ、ゆっくりと朝食を食う。デジカメの故障を切り分けるためにSDカードを買って試してみるがやっぱりダメ。これで本体故障の可能性が高まった。しかしまあ、ソニーよ。よりによってこんなところで壊れることはあるまいに。だからクソニーって言われちゃうんだぜ・・・。



 さてさて600kmは越えたぞ。ということは残り半分しか無いってことだ。このセクションは最大の峠越えが続くセクションだけど、それぞれ370mくらいと400m。どちらかというと敵は向かい風だなあ。そんなことを考えながらしばしぼんやりしている間にブルベライダーが2?3人通過。その人達はこの日320kmの走行中にであったブルベライダーの全てであった・・・。



 勇払の次は遠軽という街に入る。これはしっかりとした地方都市っぽい。このコースでDNFしやすい街のひとつと言えるだろう。そこから次のPC温根湯までは・・・なんだかぼんやりしていて記憶が余り無い。普通の田舎だったなあ。たぶん。温根湯に到着はちょうど正午のころだったのだろう。日陰がなくって辛かった記憶。そしてそこからがヒルクライムだ。



 この登りはぜえぜえはあはあしなくっても登れる程度のものなのだけど、虫の襲撃が怖かった。あぶみたいな虫がぶんぶん周りを飛ばれると気が気ではない。刺激しないようにとも思ったけど、近づかれると手をブンブン振り回し、奇声をあげて威嚇せざるを得ず、それでもふと気づくと太ももなんかにがっちりくっついていて怖い。泣きそう。泣きそうになって地面を見ると、なぜだかヤマビルがうにょうにょ動いているのを見つけたり・・・。ああ、僕もキタキツネや鹿を見たいよ。蠅やあぶやヤマビルなんかみたくない・・・。



 大きなヒルクライムを終えて下りに入ると蝶やらトンボやらに突っ込んでく仕事が始まる。蝶は走行風ではじかれてしまうのかぶつかることもないけど、トンボはごつって感じでぶつかる。嫌な感じ。そんなムシムシランドを終えて本別にたどり着いたころには日も傾き、夜が始まろうというころ。いよいよ風が強くなってきたが、いくしかない。この日320kmは全行程向かい風・単独走行だったなあ。しかし、なか日が一番辛いね、気分的に。明日になっちゃえばもうほとんど終わりだもんな。さて、行きますか、明日へ向けて。



 帯広の平野に夕日が沈んでいく。北海道の景色は広く大陸的だと聞いていたけど、西海岸の大陸的な雰囲気とはちょっと違う。何が違うのかというと華色が柔らかいようだ。あっちでは空気が乾燥しているせいかはるか遠くの景色までエッジがシャープ、くっきりはっきりしていた。日本の景色は遠くになるにつれ柔らかく霞んでいく。優しい感じ。その優しい感じの遠景がゆっくりと闇に落ちる。そしてなにも見えなくなった。この夜は誰もいない、本当の夜の暗闇・・・。


????



 あまりに静かな真っ暗闇をフグライトで切り取った視界を頼りに走る。帯広空港南にあるこの道路は舗装も良くって走りやすいのだけど、ときどき巨大な糞なんかが落ちているので気が抜けない。あとしばらく走れば気持ちのいいベッドが待っていると思うとこの辛い日の最後なのに脚がだんだん軽くなってくる気さえする。主催者の用意してくれた仮眠所をパスし、さらに1時間程走ってナウマンゾウの里、忠類をすぎてホテルへ飛び込む。寝るぞ!さて何時間寝ようか?予定より1時間ほど遅れてしまっているが・・・思い切ってしっかり眠ろう!



 だらだらと続く。

北海道1200km 「男たちは南へ」-2



 デビッドさんとmarkと一緒にPC3を出て稚内の街へ入る。知ってはいたが稚内の道路標識にはキリル文字の表示がある。そう、ここは国境の街なのだ。その他にもマクドナルドや見慣れたチェーン店など、久しぶりに見る文明の光景。ここはかつて資本主義陣営がソビエトロシアに突きつけたナイフの切っ先だった・・・のかどうかはよくわからないが、ダワイダワイと心に鞭打って先へ進む。走行距離は、既に400km近くなっている。それほど辛くないのはほとんどが平坦だったからだろう。そして風向きも良かった。それでも疲労というのはしっかり蓄積しているもので---それが稚内を過ぎて吹き出てきた・・・。風向きが変わってきていた。それも当たり前で南西から吹き上げる風に押されて稚内にたどりついたのだけど、この先には「北」はない。やや斜めにずれる感じで宗谷岬があり、それが「日本最北端」。そこまで行ってしまえばもう僕らを押してくれた風はなくなってしまうわけだ。





 しばし向かい風の中を切り裂いてくれるデビッドさんの背中を頼りに走り、宗谷岬へ。そしてここからはもう味方はいない。



 猿払という小さな街でPC4を迎える。ここで僕はデビッドさんに別れを告げ、先に行ってもらうことに。デローザ・ネオプリマート”鉄血長征号”のフロントバッグの中から「ブルベパック」と名付けているブルベカードや財布などが入った防水ビニール袋を取り出し、自作の行程予定表を眺める。本来の予定より5時間近く前倒しでここまできている。かなり上出来。猿払から少し先に主催者が用意した仮眠所があるはず。そこがおそらく450km地点だろうか。この分だと午後3時半前後には到着してしまいそうだ。実は500km地点にある枝幸という町に宿が取ってあった。そこへ到着する予定時間は午後10時なのだけど、前倒しは前提にしていたことは確かだけど、ここまで早くつくと少々もったいない。出来る限り日が出ている間は走りたいものだけど。



 猿払の仮眠所まで、向かい風の中を単独で走り続けることになるのだけど、やっぱり3時半頃にはたどり着いた。そこで美味いスープカレーを頂きながらここまでの展開と今後の予定を調整・・・。





 北海道1200kmを準備するにあたって、当然過去の事例を参考にすることになる。僕の場合の参考とは2009年のサンディエゴ1000kmブルベとゴールドラッシュランドナーズ(GRR)1200。前者のサンディエゴ1000kmはいろいろな意味で僕の中で最もきつかったブルベ。GRRも厳しかった(特に内臓的に)けど、いろんな人達に助けられ励まされて走ったという思いの方が大きい。その両者を走ってわかったのは「着替があると捗るよ」ということ。毎日シャワーを浴びて着替えられればずいぶんと気持ちの持ちようが違ってくる。そしてできればしっかりと睡眠が取れる場所を確保したほうがいいということも学んだ。だからこの北海道1200kmもホテルをとって荷物を送り込んでおく作戦とした。

 北海道1200kmのコースを見ると、アップダウンはあまり心配しなくてよさそう。ただ北海道の気候は思っていたより雨が降るようなので心配としたらそこか。去年は暴風雨だったようだけど、2年連続は無いと思おう。ただまあ、レインウェアはどうするかだなあ・・・。



 ということで今回はキャラダイスのバッグ(通称・フグバッグ)を使うことにした。今年に入ってからのブルベで背中に背負う方法とフグバッグの両方を荷物の運搬方法として試していたのだけど、おそらくは背中に背負うほうが楽。でも、積載量やジャージへの負担などを考えるとフグバッグもいいかなと。去年の1000km超級で背負ったから、今回はバッグでいくのもいい経験になるだろうというのもあった。



 フグバッグに詰めていったのはこんな感じ・・・。

 レインジャケット
 レインパンツ
 ウィンドブレーカー
 ネックウォーマー
 スペアタイア
 チェーンロック
 薬各種
 シャモアクリーム
 ハサミ
 キネシオテープ
 チェーンオイル
 ウェス
 予備チェーンコマ
 予備電池各種
 などなど・・・。

 フロントバッグには予備食料などを。フグバッグに積んでいる分、いつもより軽い。それらをふくんで自転車の総重量は約16kg。思ったより悪くない。他に荷物といえば2箇所の宿に送る着替え等。これはジャージ一式と、すでにカットしてあるキネシオテープ、カロリーメイト(朝食用)、シャモアクリームなどがつめ込んである。これを宿で受け取り、チェックアウト時に汚れ物をいれて送り返すという寸法だ。

 他の準備としては行程表の作成。どこでどれだけの休憩・睡眠を取るべきかどうか考えるために自分の走力と地形、経過距離からだいたいのPC到着予定時間を弾きだす。GRRの時に作った表が残っていたので、初めはそれをベースに考えて、コースを見てから前倒しするように観直した。結果として計画としては全体として5時間程度の睡眠をふくんで日曜日の午後11時着。つまり77時間くらいでのゴールという見通し。ちなみにGGRのときは同程度の睡眠時間で83時間ちょっとかかっていた。この行程表に「You never know how strong you are until being strong is the only choice you have.」という檄文を入れて印刷。
 
 それが猿払の仮眠所で眺めていた予定行程表というわけ。







 猿払の仮眠所を出てやっぱり向かい風を一人旅。風力発電機がぶんぶん回ってる。オホーツク海に面した障害物も何もない平原の道で風がここまで快調だった僕のブルベを遮る。途中に小さな町を通り、そこだけは建物によって風が和らぐこともあったが誤差みたいなもの。水平線まで見通せるような直線道路での向かい風は精神的にはかなり重く辛い。

「水平線」と書いたのは地平線側には神威岬なるでっぱりがあってそこが衝立のように山をつないでいるから。それが遥か遠く、空気に霞んで見えるのがさらに心を重いものにしている。あのちっとも大きくならない山塊を越えないと少なくとも宿にはつかないのだ・・・。うんざりするな・・・。



 景色がちっとも変わらんとか単調とかめんどくさいとか思っていても、少しづつ地表のこのちっぽけなサイクリストは進んでいて、遥か遠くでうなっていた風力発電所をゆっくりと行き過ぎ、神威岬は少しづつ大きくなっていく。そして1時間以上前から眺め続けていた神威岬にトンネルをみつけ、それを登り抜けると・・・まだ枝幸は近くは無かった。

 枝幸のホテルニュー幸林にたどり着いたのは予定より4時間ほど前倒しになったころ。まだ明るいうちなのでもったいないという気持ちもあるが、夜になって風が凪ぐのを待つというのもひとつの作戦ではないだろうか。チェックインを済ませ、荷物を部屋に運びこんでからレストランでいくら丼を食う。うまい。まあ、いまくえば何でも美味いだろう。飯を食い終わり、フロントを抜けてエレベータへ向かおうとすると見慣れたジャージの人が・・・z氏だ。



「な・・・なにしてんの?」と聞くと
「もう無理だから部屋で寝ようかと」とのこと。
「予約したの?」
「してないからこれから聞いてみる。ところで何時に出ますか?」
「1時くらいの予定です」と答えると
「2時にしましょうよう」と言う。
 それじゃあ明日2時に一緒にでましょうということに。脚力的には圧倒的な差があるけど、もう1700km走ってきている人だ、ある程度一緒に走ってもらえれば夜間走行の辛さも紛れるかなあと。でも、その後部屋に戻ったところでこのホテルは満室であったという連絡があり、残念だけど離れ離れになるのであった・・・。しかたないのでシャワーを浴びてぐっすり眠ることにしよう・・・。

 まったりと続く

北海道1200km 「男たちは北へ」-1



 石狩川を渡って札幌の郊外へ出ると交通量はぐんと減る。48人のエントラントは大きな集団になることはなく、細い車列もいつかとぎれとぎれになって僕も一人か数人で走るようになった。夕日が地平線に落ていき夜の帳が下りていくとともに、背中を軽く押してくれていた追い風もゆっくりと穏やかになっていく。そうして新十津川のPC1へ。約70kmを走ってきた。まだ残り距離は1130km。思った以上に平坦なのと軽い追い風のおかげで想定時間よりずいぶんと早く着いた。コンビニのスパゲティをかきこみ、背中に差してあったバナナを食って再び走りだす。今度はデビッドさんとシアトルから参加のMarkと三人で。



 夜の北海道の道には人影も車影もなく、ヘルメットが風を切る音だけが耳に残る。町があり、暗闇があってまた次の町へ。その静かな連なりの最後が沼田というところ。この町のコンビニから先には次のPCまで70kmほどの無補給地帯になるというので少し休む。北海道は補給ができない区間が多いと聞いていたけど、少なくともこのコースに限って言えばそこまで神経質になることもなかった。程良い距離でセイコーマートあたりのコンビニがでてくるし、日中であれば集落の商店なんかもアテにできる。



 街灯も無い道を・・・なのだけど、積雪シーズン用に道の端を示す赤い↓が頭上にかなり短いスパンで吊り下げられていて点々と空中に道を作っている。若干不思議な光景。↓にはLEDが埋め込まれているようで、赤く輝く列が古き良き時代のゲーム画面のようにつづいているのだ。夏は点灯させる必要無いんじゃないかな・・・という気もするが・・・。

 沼田からは幌加内をぬけて美深まで。夜通し走るのはこのセクションのみの予定。無補給地点のはずだったけど、途中の道の駅にスタッフが待機してくれていてちょっとした休憩所になっている。驚いたのはここの屋内ベンチで仮眠していた人がいたこと。たしかに午後6時スタートのこのブルベ、初めの夜も寝てよいのだけど序盤の貯金が少ない時点で仮眠するという発想はなかった。この方のものらしき自転車のキューシート(行程表)にはびっしり赤ペンで注記がしてあって、たしかにここで2時間ほどの仮眠を取ることになっているようだ。それにしても人の出入りがあって明るい場所で、まだそれほど疲れてもいないと思うのだけどよく眠れるなあと羨ましく思う。



 道の駅前後の道は本当に街灯もなく、近くに人家なども少ないのであろう。真っ暗。グループの最後方に回ってから後ろを向くと本当の暗闇が広がっていて平衡感覚を一瞬失うほど。ブルベバイクが集まっているので前方への火力はかなりのもの。こういう所をひとりで走るのもオツなものだけど、人数が多いと時間がたつのが早くていいね・・・。やがて美深へ近づいてくるとその方向の空が明るい。



 美深へ辿りつく頃にはまだ3時になろうかという時間なのに空は明るくなり、濃い霧が流れてきた。少し肌寒いけど、ウィンドブレーカーをまとうまでもない(着ている人もいたが)。このPCでは思いがけない人と出会う。z氏だ。東京から数日かけて自走でここまでやってきて完走後は自走で帰っていくという彼は、さすがに疲労から1時間半ほどすっかり眠っていたという。



 さて、この先のPCは稚内なのだけど、まず音威子府から天塩付近までの山間部がひとつの山。そしてその山を越えて海岸にでたときの風の様子がもうひとつの山。このブルベのコースはとても平坦なので、ヒルクライムで苦しむことはまず無いだろうと踏んでいた。問題は天候だ。天候によってブルベの難易度は大きく変わる。このコースの場合は海岸線が多く、場合によっては風で苦しめられることになるだろう。



 途中に「北海道命名の地」なんていう看板を見ながら宗谷本線にそって道は進む。大きな谷間を抜けていくこの道は案外アップダウンもなくスムーズに進む。よく言えば快調。でも単調。しかし、こんなものは単調とはいえないとあとになって思い知らされるのだけど。最後にちょっとした峠の鞍部をトンネルで抜けて海までのダウンヒル。海岸線の道路は、まだ若干海岸から離れていて海はほとんど見えない。風は幸いなことにまだ無風か追い風状態のようだ。まずは天塩まで走ろう・・・。

 沼田から後はデビッドさんがずっと集団を引き続けていた。デビッドさんは僕の足首が悪いのを知っていて、前へでなくてもよいよと声をかけてくれたのだけど、そのせいで先頭交代をしようという人がでてこない。彼は僕よりはかなり強い人で、前へでようと列から出ると中切れを起こしそうになることもあってそのままの状態。心苦しい。そういえば足首はここのところ悪くなかったのだけど、なぜか今回はしょっぱなから違和感があり、下手にダンシングなんかしようものならぐりぐりと関節をすりつぶされるような感じがした。思い切り手に体重をかけたカッコ悪い変則ダンシングしかできない。これにはちょっとまいってしまったけど、とにかくもう痛いのだから、これから先に「足首が痛くなったらどうしよう」と心配する必要もないわけだ。



 天塩のコンビニで少し休憩してから先はオホーツク海沿いを走り続けるステージ。地平線まで真っ平ら、水平線と地平線しか見えない最果ての景色の中を突き進む。・・・突き進んでいるのだけど、全然進んでいるように感じない。後にz氏は「夜走ってても同じようなもん」と評したけど、たしかに・・・。







 稚内の手前で少し丘を超える場面があって、僕はやや遅れてPC3に指定されたコンビニへ滑りこむ。利尻富士が見え始めたあたりから雲が消えていって、このあたりではずいぶんと暑くなってきた。無茶苦茶暑いというわけではないけど、ボトルに氷を入れてもいいくらいの暑さ。日陰で少し涼んでいるとz氏が後ろから。どこぞで仮眠しながら一人で走っているようだ。一人だと気分的にオホーツク海沿いはきつかったろうなあ・・・。

 淡々とつづく