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【落武者魂】 09 Fleche 360km
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落武者魂

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09 Fleche 360km

フレッシュ2009 -5

午前3時過ぎ。残り5時間で60km。どうみてもたいしたことの無い数字。これまでのペースがペースだけに楽観的とは言えないまでもGregらの顔にすこし笑顔が見えた。ブルーノはまだつっぷしたままピクリともしない。GregだってPCHランドナーズの主催者としてLA地区の年間のフレッシュとブルベを統括する立場。恒久的なスタッフは彼しかいないはず(他は毎回異なるボランティア数名だそうだ)。フレッシュの準備と前夜ピザパーティ、彼自身の仕事などなどを抱えつつキャプテンとしてこのフレッシュを走っているのだからけして余裕は無いだろう。実際、後に彼は「あまりにも速度差があるグループだったのがきつかった」とLisaに語っていた。

3時15分過ぎに出発の準備を整えているとブルーノが復活。彼も加わってGregの家まで16km(うち6kmの登坂)の敵中突破を開始。防寒装備を完璧に整えたのだけど、なんだか妙にぬるい・・・。ぬるかったり寒かったりしながら、真っ暗闇の中8%前後の登坂を続ける。実のところ、峠に入るとほとんど木がないので星明かりだけでもぼんやりとあたりが見える。もう僕らもパワー溢れてはいないので、完全に脱落状態でゆっくりと登る。随分休んだおかげか細君はよく喋ってくれる。僕は心拍がけっこうあがってしまってあまり話せない。・・・なんで喋りまくれるんだ・・・とかは深く考えないことが幸せなタンデム生活のコツ。

ほとんどクルマも無く沈黙の星空は深い。いや静かだけどそのおかげでむしろ沈黙は無い。風の音、石油くみ上げ器の音、ジーっという高圧電線の音。藪の中でガサガサ!と音が立って驚いたり、たまに来るクルマが僕らに突っ込みそうになって急ブレーキをかけたり、となかなか飽きさせてくれない。たぶん、日中なら3段くらいの九十九折りが見えるのだろう。「あそこへいって、あっちへまわって、むこうを抜けるとピークが見えるはずだ」と細君へ伝える。思ったより短くはなかったけど、指針としてはだいたい正しかった。頂上の少し向こうに3台分のレッドライトが。「まってくれてありがとー!」「グッジョーブ!」「さあ、こっからはイージーな登りはあるけどがんがん下りだぜ!」「GO!GO!GO!」

真っ暗闇のダウンヒル。ハブダイナモが生み出す電力が黄色く路面を照らすがながれまくって何も見えたものではない。久々のドラッグブレーキの登場。あるとき、ダウンヒルからのゆるい登り返しで一気に引き離される。さすがに脚が無いな・・・と登り終えて気づいたのは”ブレーキひきっぱなし”。サイドブレーキを引いたまま走ってたようなものだ・・・。一番下まで下りきり、心配していた登り返しは緩やかで4時過ぎにはCPと同じブロックにあるGregの家へ。どのみちCPの店が開くのは朝になってからなので彼の家で寝ることにする。フレッシュに許された一カ所での最長休憩時間は2時間。残念ながらそれを完全活用とはいかないまでも1時間くらいは眠れるはずだ。これはブルーノには助けになるはず。

Lisaが深夜にスープなどを作って待ってくれていたようだ。皆でそれを食い、飲み、そして寝る。僕とマシューは食卓につっぷし、他のメンツはリビングの床や寝袋へ。しかしかなり換気しないと汗臭かっただろうね、この部屋。

6時前に起床。Greg、ジェリ&マシュー、ブルーノ、僕らで出発。「細君が膝かなり痛そうなんだよね」という話をしてみるも「痛み止めあるお!ポジション見直すといいお!」で終わる。誰も「無理せずリタイヤすれば?」と言ってくれない。本人も「まあ、ここまで来たし・・・」ということなのでこのまま行くことに。一応コースを確認したらあと20milesは下り基調の平坦ロードを突き進むだけみたいだ。残り2時間しかないし、どうせ。

 


皆黙々と走る。幹線道路までGregが誘導し、その後はジェリーたちのタンデムが前を引っ張り続ける。僕らは最後尾。列車をくむものの、パワー不足とタンデムの操作への鍛錬不足で1台分前があいてしまう。なんとかついていくのが精一杯。寝ている間は汗が冷えてガタガタ震えていたものの、陽が昇るにつれて気温が急激にあがっていく。「今何時?」「7時」。そろそろ”ジャカジャン!”を歌い始めたいのだけどまだ早いとたしなめられる。引き離されないように引き離されないように。今日は日中36度くらいになるという。強烈な日差しが僕らを炙り始める。

 



海岸通りへ。残り数マイル、ジャカジャン!あったらしーいーい、とエンディングテーマを歌い、歌いながらVenturaのモールへ突入。先着したグループらしいサイクルジャージの集団が駐車場で僕らを迎えてくれた。ふわーおわったー、つっかれたーあー。「ワオ!タンデムで来るなんてクールね!」と迎えられちょっぴりうれしい。ファミレスのホールを借り切って朝食会場にしてあって、先着者、スタッフ、そして続々(といっても全部で5チーム)とやってくる他チームのメンバーが席についたり着かなかったり。開会の宣言も式段取りもなく、知った顔が出会えば「やあやあどうだったよ、元気だったか?」と話が咲く感じ。僕と細君は朝食セットを食い、マシューたちと話したり。Gregは全チームや集計しているボランティアの間を忙しそうにしている。

 

↑バーニー、なんか妙に爽やかだな。 そして自走で帰っていく人々も・・・。

やがて流れ解散的にブルーノや他チームメンバーが去り始め、僕らもLisaのクルマへと。僕らのタンデムは誰かが既にしまってくれていたようだ。しばしクルマで待っているとGregもやってくる。さあ、帰ろうか。帰ってシャワーを借りてさっぱりして、そして少し眠ろう。少しばかり眠すぎるから。
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フレッシュ2009 -4

サンタバーバラからベンチューラまでは60kmちょっと。まずはサンタバーバラの夜の町を走る。日本の夜の町とは色合いや明るさがまったく違うが、国際的観光地とあってか華やかさもある。いずれにせよ、ここからはよく走るところなので大体の勘案がつくのが行程の不安を多少拭ってくれる。細君は元気なのだが(タンデムではその労力がフェアに50:50されるわけではないようだ。もう一台の方は若いマシューがへとへとな感じに。主機関は辛いよ)、お尻が痛い膝が痛いは心配。PCHの側道を行ったり来たりしながら夜の道。街灯は少なく夜空はどこまでも広い。細君は北斗七星が見えたと言う。バーニーは平坦が続いているおかげか、山道の頃より元気っぽい。僕は夜のサイクリングが好きなんだ。静かで、集中できて、クルマもいない!とか言ってる。ほんとかバーニー?

ブルーノが遅れる。Gregが気付きチームをとめて待つ。なかなか来ないのでなんで遅れてるんだ?って話に。誰にもわからない。しばらく待つと彼のライトが遠くに浮かび、やってきた。そのときは僕らはわかっていなかったけど、どうも眠いらしい。寝て落車したという話だ。さすがに時間も押してきた。だんだん雰囲気が緊迫してきているようにも感じるが、本当のところはわからない。

真っ暗な坂道を下るとPCHへの小さな進入路。毎度毎度のPCH脇自転車道だ。日本でも時々「東名の路側帯を自転車道に」みたいな冗談が出るが、本当にやってしまっているのがこれ。もうすっかり慣れた。暗い海はロマンチックなんていうのは嘘だ。何も見えないだけ。後席の細君と話し続けることで気を紛らわせながら、旧道へ。ここは道があまり良くない。そしてキャンピングカーの並ぶ海沿いへ出ると道は勾配1度か2度程度だけども確かな登りが続く。細君の膝が気になるので、できるかぎりゆったりペダルを回すようにすると、やはり脚にくることは避けられない。増えた必要トルクのぶんは僕がカバーしなくては意味が無いから。ベンチュラへの細いパスへ入るところでGregとタンデム2台が後続を待つ。Gregが「かなり時間的にまずい」というようにつぶやく。そして、まずブルーノが来た。ジェリーたちのタンデムのペダルと彼の自転車のペダルを交換しようと皆が作業に入る。どうやらブルーノの眠気が限界で、タンデムの後ろへ移してジェリーを彼の自転車に乗せようという思いだったようだけど、工具が小さくペダルが外れずに諦めることに。

さらに遅れてバーニー。揃ったところでベンチュラへ向かう。ベンチュラの町も観光の町だが、深夜ということもあってか、ちょっとガラの悪い感じ。ホームレスが多いから気をつけて、と言われる。路上には無軌道な若者たちがうろつき回り、大音声で酒場から音楽が溢れ出している。「ここで24時間レストランをみつけて少し寝る」とキャプテン。本当は最後のCPである彼の家まで走り、そこで仮眠の予定だったけども、とてもそこまでまともな時間に走れることはできないと言う判断なのだろう。しかし、アメリカの夜にあいている店など限られている。モールに入るがどこもかしこも閉店。開いているのはクラブのようなところだけ。ついにブルーノとバーニーはファストフードの外壁に沿って横たわる。Gregが状況を教えにきてくれるが、よくわかっていない僕はどうしようも無い冗談を言って彼にたしなめられる。若いマシューはそれほど疲れをみせていない。僕は少なくともバーニーはここでモーテルをとってリタイアを選択することもできるのではと内心思う(どうせゴールもこの町なのだ)。しかしキャプテンは誰一人、自ら言い出さない限りとめる気は無いようだ。おそらくそのせいで完走できないならばそれも止むないという考えだろう。僕はキャプテンの意思に従うのみ。そういった戦いにも意味があることはよくわかるから。

15分ほどの休憩のあと、皆が集められた。寒すぎるからここで寝るのは諦めたのだろう。Gregが何かを宣言する。どうもギブアップするように聞こえる。そうなのかもしれない。皆、言葉も無く頷く。そしてまた走り出す。ここからは半分登り、半分下りで100km。ちょうど昼間に大きな大垂水くらいの峠を越える。そこだけは僕の心配だ。

暗い郊外の住宅地を登っていく。クルマ通りは少ない。僕らも登りが続くとGregとジェリーのタンデムのスピードに完全には追従できない。細君は元気だけど痛みが強まっているようで、僕はくたびれている。夜の世界は不思議なんだけども寒い空気の場所と暖かい空気の場所がある。これは日本にいたときよりはっきりとそう感じる。体の芯がひえるくらいの時もあれば、しばらく走っていると汗が吹き出るように暖かかったり。そんなとき、通りすぎるクルマから罵声とともに何か投げつけられ、僕の前輪に当たってはじける。なにか?液体?水?それからずっとブレーキの鳴りが酷いことに。朝見たらどうもジャムかなにかのようだ。でも固着してたからもっと違うものなのか。いずれにしろ、僕自身や細君に当たらなかっただけでもよかったと思おう。

なにか夜の道で罵声を浴びせられることは何度かあったけども、物理攻撃を受けるのは初めてで少なからずショックを受ける。さすがにもうやだとも思う。どこか夜のモールへ入る。若い女性たちがコンビニの前でたむろしていて、黒いクルマの若い男と話している。さっきのクルマだったらと身構えるがそうではないようだ。トイレは貸してもらえない。まあ、どうみても安全な感じはしないものな。ここの駐車場でGregの奥さんLisaがクルマを止めて待っていた。ついにバーニーがリタイアするようだ。その合流の為に立ち寄ったらしい。彼の自転車と彼自身をクルマに乗せ、4台になった一行は走り出す。

誰もが無言で走る。クルマ通りの少ない広い国道の側道を走り続ける。僕らのタンデムも会話が無い。ちょっとくたびれた。みなの雰囲気も明るくはないし。彼がリタイヤしたことで僕らも諦めて彼の家へ向かうだけなのか、それともゴールを目指すのかわからない。聞いて、リタイアだとわかれば僕らのモチベーションも崩壊しそうなので「まだゴールまで余裕がある」と信じて走る。実際のところ、24時間で360kmtというのはコース取りをチャレンジングなものにしなければそれほどたいしたものではない。これだけいろいろありながらも時間的にはゴールが不可能と判断せざるを得ないほどではない。まだ多少は休みながらいけるはず・・・。

ブルーノが本格的に遅れだす。先行3台がペースを落とすと追いついてきた彼が闇の向こうから「眠りにおちちまった!」と叫ぶのが聞こえる。僕らは走り続ける。遠くから「SHIT!SHIT!SHIT!」と。誰がどう見ても限界だ。辛い時間が過ぎて、そしてMoorparkまで10マイルの標識。その交差点にあるGSのコンビニに駆け込む。ブルーノは店の前で倒れる。僕と細君はトイレに行き、必死にアップルパイとチョコデニッシュを突っ込む。リタイヤするのなら、僕としてはもうここから進みたくはなかった。ここから峠を越えなくてはならず、それは小さな峠ではない。細君は大丈夫というものの、膝は痛むらしい。だがもしゴールを目指すのであれば、残り60kmを諦める判断もまた難しい。グレッグが僕に言う。
「私の家で残り25miles。家で少し睡眠をとって6時に出発、2時間でゴールする」

フレッシュ2009 -3

どうもまだ疲れが抜けない。というよりも急な暑さで参ってるんだな、これは。

さて、登りが終わると長い長いダウンヒル。ずっと直線のダウンヒルで、細君が言うには45miles/hを表示していたそうだ。時速72km/h。まあ、誤差もあるから何とも言えないが、700-30cのぶっといタイヤと重厚なフレームのおかげで恐怖はあまり無い。コーナーはちょっと怖い。いい加減な調整しかしていない古いカンチブレーキがきかないのと、借り物とあってハンドル幅があってないのでそもそも引きにくい。もともと下りは不得手感が強いんだよね。

下り終わるとロンパックの町。まだ細君は「still fine」。尻の痛みも特にないとのことで良いことだ。むしろ僕より元気そうに見える。ここのCPであるコンビニはトイレを貸してくれないので、隣のブロックの公民館までトイレに行かせる。デニッシュを食い、コーラを飲み、水を補給。遅れているバーニーはほとんど休まずに先行出発。ブルーノはパンク修理。


↑半年ぶりに。また来月もここに来る気がする。

ロンパックから次のCP、サンタバーバラまでは補給無しで80kmくらいあるはず。そのほとんどは太平洋岸自動車道、PCHを沿って走るのだけど太平洋岸まで出るまでは大きな山岳地帯。きつくはないが、長い長い登りがいくつかある。前の600kmのときは非常に苦しかったので、そういう話をしながら走ったが、言うほどではなかった。やっぱり100kmオーバーで出会う登りと250kmオーバーで出会う登りは違うということか。あるいは強くなっているということか。後者であればいいのだけど・・・。

長い登りの後には長い下りが。しかし僕らのタンデムはチェーン落ちやトイレ休憩をしていたので太平洋を見下ろす場所まで来た頃にはすっかり遅れてしまっていた。トイレ休憩のあと、待っていてくれたGregとブルーノと一緒にPCHをひた走る。

 

↑ひたすら荒野を登る。ひとりだと辛いが話し相手が常にいるタンデムはそう言った意味での疲労は少ない。チェーン落ちの修理を眺める白い牛。

 

↑ついに太平洋が。ここに地終わり海始まるのだ。

期待したほどではなかったけれども、軽い追い風も手伝って僕らのタンデムは手を付けられないほどの勢いで走り続ける。僕の方にはメーターなど一切つけていないのでスピードはわからない。細君の席にはついているのだけど彼女はそんなことに興味ないのでやっぱりよくわからない。Gregとブルーノを引き続けて半時間ほどでジェリー組タンデムとバーニーに追いついた。Gregがついてくのに精一杯だったぜ、と言ってくれる。それがタンデムの仕事だからね、というと彼は笑った。

バーニーを囲むようにしてゆったりとサンタバーバラへ向かう。これまで調子のよかった細君が尻の痛みと膝の痛みを訴え始める。尻は仕方ないけど、膝は指し示すところが腸脛靭帯っぽい。それもまあ、普段なら頑張れとだけ言うところだけど、半月後にフルマラソンを控えているということもあって無理は言いにくい。とりあえずサンタバーバラまで行きましょう、そこで判断。

サンタバーバラのCPに指定されていたピアにあるファストフード寿司屋は既に閉店(か廃業?)。しばらく店を探してシーフードレストランへ入ることに。ちゃんとしたレストランでゆったり食う感じだけど、時間間に合うのかしら・・・現在は200km地点、午後7時前。11時間で200kmか。計算上はまだ大丈夫・・・。

 

↑閉店した店の前で。そして開いている店をみつけた。このテラスでは食べず店内へ。

 

↑頼んだパスタは味が薄すぎ・・・。細君はステーキを。すっかりアメリカンだなオイ。ブルーノがおごってくれた。ありがとう!

飯の間にサドル調整したり細君が痛み止めをもらったり。負傷で参加できなかったGregの奥さんであるLisaがサポートカーとして搭乗。僕らの財布と皆へドリンクなどを持って来てくれる。昼飯時より調子良さそうに見えるバーニーはここでリタイヤせずに続行するらしい。大丈夫かな?


↑食べている間にすっかり日は暮れて・・・。午後8時。ちょうど12時間で200km。24時間で400kmは走れる計算だ。まだ40km分、時間制限に対して余裕がある(キューシート上は375km。気付いてなかったけど)。

次回予告
夜が始まる。真っ暗闇の中岸壁に打ち寄せる波の音だけが響く夜に。後から思えば幻想的。しかしそれは異国の夜を走ることの怖さも教えてくれた夜だった。

フレッシュ2009 -2



翌朝5時過ぎに起床。バタバタと準備を始める。Gregの言うには朝6時にはクルマに乗ってスタート地点に向かっていなければならないはずなんだけど、6時くらいになって自転車にサドルをつけていたりエアロバーをつけていたりする姿もあって謎。そういうものかと思ったものの、その後の運転の様子を見ていると焦っているふうもあり、しかし25分前に出発地点へ到着。

 

↑この週末はやたら暑くなる予報。でもまだこの時間は暗く寒い。ミニバンにタンデム2台とシングル3台を搭載。僕らは別のクルマに。


↑移動中

スタート地点はサンタバーバラ北側の山頂のひとつにある駐車場。Camino de Cielo。天空の道、という意味の名の道がある。このフレッシュグループのチーム名である「Riders from Camino de Cielo」とはこのことだったのだな、と初めて気付く。気付くその間にも皆で自転車を降ろし、ウィンドブレーカーを羽織り、カードを準備確認して・・・などあわただい。8時くらいになったので、Gregがキャプテンとして要項などを伝え、さあ、行くぞ!というところでジェリーが「俺まだスニーカーはいてるよ!」と。マシューが「おいおいこいつは・・・」といったジェスチャー。まったくお茶目なおっさんだ。

 

 


気を取り直して出発。CP1までほとんど下り基調。むしろ下りで手が痛くなるくらい。Gregが「ドラッグブレーキを使え」と言ってくる。タンデムは車両の重さもあるけど、乗っている人間の重さも大きくなるので、長い下りや急な下りでは通常のブレーキだけではキャパを超えてしまうことがあり、そのために第三のブレーキがついていることが多い。この自転車の場合は後輪にドラムブレーキがついていて、そのワイヤーをハンドルに取り付けられたレバーで引く。それを使えというのだ。もちろん、すでに使っていたのでそう答えると「解除を忘れるなよ。昔、登り返しで解除を忘れて嫁さんにえらい怒られた」とのこと。ありうる。

#自転車用ドラムブレーキは日本の小さなメーカーだけが生産していたのだけど、金型が古くなり生産終了したとのこと。世界のタンデムライダーにとってはちょっとしたトピックだったらしい。

 

 

↑ゆるやかなうねりを繰り返しながらチームは進む。PBPジャージを着ているのがGreg。黄色いジャージを着た初老のライダーがブルーノ、その左側でうつむいているのが羊飼いバーニー、タンデムの前席がジェリー、後席がマシュー(若い)。

 

↑おやおやこんなところに246。ヤビツへ向かいます(嘘)。雄大な景色、だけは売るほどある。

CP1はソルバングの小さなモールにあるカフェ。ソルバングはデンマーク村として有名なところで、LA600kmで走り抜けたところでもある。そんなこともあってデンマーク風のおしゃれカフェでゆったりし、町並みを眺めることもできるのかなと思っていたのだけど、単なる町外れで特に何もなし。フルーツパイを食べ、茶をのみ再出発。

タンデムでの走りは快調。とにかく異国からの客人として足手まといになることは避けたかったのだけど、他の人のペースを見る限り大丈夫そうだ。特にブルーノやバーニーはそれほど登りが速くない・・・というかバーニーはかなり遅れる。大丈夫なのだろうか。ペース的にも心配になってくるが、そのあたりのことは言語スキル的に口出しできない。かなり咳き込んでいる様子もあるが・・・。


↑風車と路面に”風車マーク”。後者は「ウィンドミル・センチュリー」での方向指示用のマーキングらしい。

CP2はワイナリー。そこでブランチを取りましょう、ワインを買ってレシートもらいましょう、PBPのように(? ということだったのだけど、うーん当該のワイナリーは見つからず。もう少し先じゃねえか、を繰り返しているうちにどうもこうも無いところまで。ここで皆で協議し、電話したりしてそのワイナリーは存在しなかったことを合意確認してCP3へ向かうことに。CP3のロスアラモスへ。ロスアラモスはワイン畑の広がる乾燥した平野の一本道沿いにある小さな集落。西部劇にでてくるさびれた町、といった感じ。古い街道沿いに商店がいくらか立ち並んでいるだけ、なのだけど案外人はいるようだ。アメリカの片田舎って意外と人がいて日本の片田舎の絶望的な雰囲気は無い。ただのどかなだけ。

そこで僕らは昼飯をとったのだけど、僕のもっていたカードがロックされていることが発覚。ずっと使ってなかったカードだから気付かなかった!そしてこれしか持って来てない。やばい。慌てているとジェリーが代わりに支払いをしてくれて、ここではなんとか。しかし、カードが無いでは生きていけないぞ・・・。うーん。

 

 

左上:ブルーノ&Greg、右上:バーニー 左下:ジェリー&マシュー 右下:犬

とりあえずお金はジェリーが貸してくれることになった。気になるのはバーニーの様子。テーブルにつっぷしたり頭を抱えたり、あまり食べなかったり。なんか声をかけにくいくらいの雰囲気。これまでのペースもかなり遅かったのでサンタバーバラあたりでリタイヤするのではないかと思った。あそこならAmtrackがあって輪行でVenturaまで戻ることができる。あるいはどこかで回収車を召還することもできるかもしれない。いずれにしろ、始まったばかりでこの調子では難しいのではないか、という雰囲気であった。

ロスアラモスから街道を東進。ずっと強い風が吹いている。この地方はずっとこの風らしく、去年も苦しんだし、昨晩も警告を受けていた。一応タンデム班なので前に出て20km弱を引き続ける。風の抵抗に関しては本当に楽な自転車なのである。

街道から外れて山へ。5?8%程度の登りが延々と続く。そして暑い。この週末は異常に気温があがって30度くらいに(今現在の気温が35度!。しかしこの週末には20度くらいに戻る予報)。日陰に入るとひんやりしていて心地よいが、あまり日陰は無い。バーニーはかなり遅れる。ブルーノも彼につきあっているのかやはり遅れる。結局、峠のピークで彼らをかなり待つことになった。すでに6時間ほどが経過しているのだけど、まだ100kmになるかならないか。始まったばかりかつ基本的には下り基調だったはずなのでこのペースはまずいのではないか?うーん、不安だ・・・。

フレッシュ2009 -1

1月の頭、LA200kmを完走後に主催者のGregに呼び止められた。フレッシュなタンデムで走らないか?と聞こえて「え?新古車のタンデムを安く譲ってくれるの?」と思ったら「フレッシュにタンデムで出ないかい?貸すから」ということらしい。フレッシュかあ、考えたこと無かったなあ。ちょうどいい機会だ、嫁さんに相談して返答します、やってみたい、と答えて帰宅。ろくな説明もせずに「24時間で300km走るよ!タンデム借りて!」と伝え、参加の旨メールした。

フレッシュというのは長距離サイクリストの祖の一人が毎年のイースターの際に自転車で帰省したという故事に由来するイベントで、ブルベとの違いは5台(5人ではない)一組のチーム走であること、ルートはチームごとに申請した360km以上のものであること、かならず24時間を要して走ること(ゴールへまっしぐらに走ることを防ぐため、最後の2時間に25km以上走ることが必須。および一カ所の休憩は2時間まで)などが定められている。

大枠としては簡単なんだけど、細則が曖昧なのでメーリングリスト上でも微妙な点でいくつかあがっていたが、基本的にはフレッシュというものの精神に則って判断することになるだろう。LA(Ventura)では土曜日の朝8時にそれぞれのチームはそれぞれの場所から出発し、日曜の朝8時にVenturaのレストランへ集合することになっている。24時間で360kmというのはそれほど厳しいペースになるとは思えない。2時間の休憩を一杯一杯使えば、連続2時間弱の睡眠を取ることも可能だ。僕にとっては。うん。でもタンデム。果たしてうちの細君にそれが可能なんでしょうか?そして、その「積載物」を搭載して走る僕にとってもそれが可能なんでしょう?というのが今回のテーマだ。

事前に借りたタンデムは専業メーカーであるサンタナのアルミ製。PBPも戦った殊勲車両だけど、かなり重い。コミコミ20kgは下るまい。様々な付加物、トランクや、そこにつめる防寒ウェアなどもひっくるめれば25kg以上。かなりの重量がある。タイヤは30c。ママチャリなみにぶっといが、その分コンフォータブル。事前練習のためと称して300kmブルベのあとに借り出し、二月ほど週末ごとに50km程度をふたりで走った。一回だけサンディエゴへも。置いていかれる心配をしなくていいため、細君としては非常に気に入ったようだ。登りは面倒くさいけど、それ以外は快適ではあり、平地では40km/hをコンスタントに維持することも難しくはない。だいたいしぃちゃんと同じくらいの性能だと言えるんじゃないだろうか。こっちの方が登坂は弱いけどな・・・。

タンデムについては、いずれ別途記すとして(フレッシュも走り切ったので、タンデムについて「語る」権利は得たと思う)、そうやってこつこつ練習しながらフレッシュの日は近づいていった。

コースは当初「サンルイス・オビスポ」という町(非常に美しい町らしい)からVenturaへ一直線へ引かれていたのだけど、スタートへの集合や各自の利便などを考慮して最終的にはSanta Barbara北側の山頂からスタート、八の字を描くようにして最終的にVenturaへ向かうようなルートになった。僕的にはほぼ去年のLA600kmと同じでおなじみな感じ。

さて、どうやって現地入りしようかな、と思っていたらGregから「前夜にピザパーティをやるから来い。もしあれだったらうちに泊まれ。全員分のベッドはないから寝袋持参でな」とのこと。ありがたい。というかアメリカ人の家に泊まるなんて僕ら的にはなかなか無い経験。ではでは、と寝袋を購入してwktkしながら当日を待つ。

 

タンデムでかい。ホンダ・エレメントにようやくって感じ。まあ、ばらさなくていいんだから文句は無い。


金曜夕方、渋滞で有名なLAを抜けてMoorparkの彼の家へ。約200kmの道のりだが3時間ほどかかった・・・。


ちょうどピザ釜が暖まってピザを焼き始めた頃合い。ちょうど良いくらいの広さのお庭にGreg自慢のピザ釜とBBQセットがある。ピザを焼くのは彼の息子。皆親切だ。アメリカの幸せな家庭って感じがしてうらやましい。先客はもうひとつのタンデムライダーであるジェリーとマシュー。ジェリーは年配でマシューは30前の好青年。まだ3回した会ったことないんだそうだ。今回のタンデムは僕らと彼らだけ。本当はGregもタンデムの予定だったのだけど、彼の奥さんであるLisaが直前に階段から落ちて負傷中のためシングルで走ることに。そのライレーのバイク(30年もの)がちょうど組み立て中だった。シルバーのフレームにフロントとリアのキャリアがついた姿はなんとなくロードマンを思い出させるなあ。

 

ピザパーティの夜は更けてやがてお開きに。マシューと僕らはリビングに寝袋をひいてシャワーを借りる。やがてサンルイス・オビスポから羊飼いのバーニー(嘘だと言ってよ)が現れてソファに寝袋をどすんと。なんだかフランク。それがアメリカン。

うちの嫁さんの方が発音などがいいので話がはずむのだけど、僕の英語力には僕自身がっかり。がっかり・・・。


がっかりした心をいやされながら、誰もが眠りにつく。明日はフレッシュ。


次回予告
抜けるような晴天。天空の道「カミノ・デ・シエロ」。豪快なダウンヒルから始まり、すばらしい景色を走り続ける僕らは、この旅がすばらしいものになることを信じて疑わなかった。そう、誰もが。
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