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【落武者魂】 SR600 NihonAlps

落武者魂

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SR600NihonAlps 第伍話 おまけ

 駅で一段落して考えた。さてこれからどうしようかと。と、いうのは小淵沢にはビジネスホテルなど無いのだ。文明の力を駆使して検索するが、30kmくらい走らないとネットで確認できるビジネスホテルは無い。しかし臭いなあ(自分が)。道の駅の温泉は10時、つまり9時間くらい待たないとオープンしない。うわー中途半端だなー。とりあえず車へ戻ろうと思うけど、100mくらい登ることになる。ちょっと大げさかな。でもくたびれた体にはちょっとうんざり。
 結局、そのまま車で帰ってしまった。特に眠くなることもなく、家まで。うーむ。眠くなるか否かは運もあると思うけど、やはり6時間近い仮・・・睡眠時間が効いている。

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SR600出走前はひどく緊張していて、背中なんかバキバキにこわばっている状態だった。まあ、肉体的スペックは自分自身まったく信用してないし頼りにできないので仕方が無い。一方で、タイムスケジュールを組んだ時点で「あれ、できるんじゃね?」と思ったのも事実。午前0時にスタートして330km地点の高山に24時間以内に到着すれば、あとは30時間で270km。24時間で330km? 30時間で270km? あとはどれだけ寝ていいのかな、というだけ。
 ほんとにこんな計算でいいのだろうかと随分と疑い、よけい不安になったものだった。結果的には20時間で330kmに到達し、7時間ちょっと中断しても大丈夫だった。余裕が出てくると、アホな写真を撮ろうとしたり、ゆっくり飯を食えるところを探したりしてたので、もういくらかは余裕があったろう。

 というほどのペースで行けたのは天候のおかげ。皮肉にも不順な天候のおかげで気温があがらず、体力の消耗を抑えることができた。スタートから阿南まではボトルへの補充すらしてないくらい(ロングボトル一本装備)。もともと出力も高くないので、エネルギー消費が少ないのも効いているんだろう。貧脚ならではのメリットというやつだ。ただ、悪天候だと乗鞍の閉鎖確率は高まる。今年のチャレンジャーの被閉鎖確率は50%を超えるのではないだろうか……。こういうときにこそ、日頃の行いがモノを言う。まさにインガオホーである。

 装備はこれまでの延長。今年の8連続雨中ブルベによって遂に壊れたDi2ディレイラー(まあ、それまでも酷い環境で使ってたからね……)を交換し、さらに楽をするために採用の27Tスプロケット、それくらいかな。車両重量はボトルや補給食、電池、工具、カメラなど込み込みで11.5kg。それに背負いのバッグに雨具をフルセットと補給食で1.5kg。

 直前まで普通のカーボンロードに必要なブルベ装備をくっつけて走ろうかとも思ったのだけど、10kgくらいにはなっちゃうのでやめた。9kgを切ってくると、僕の脚力でも軽さをメリットにできるのだけど。
 まあ、結局はそれでよかった。
 自分自身の能力をバイクが補ってくれた。ときどき「これ重いだけだよな……」と思ってしまうディスクブレーキは、こんな雨の山岳では最強のサポート。自分の脚力を信じない30Tx27Tというギア比はどんな場合でも登坂を可能にしてくれた。こんなギア比じゃ進まない……と思われるかもしれないけど、それでも押し歩きよりは速いみたいだ。

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 コースについては、いくらか気をつける必要がある(下栗、大平、大河原、あたり)けど、やはり下りで距離を稼げるのはFujiと同じ。意外と前半より後半にキツいところがのこっているけど、交通閉鎖はまずないのと、霧ヶ峰、白樺湖のあたりではホテルなどへ逃げることもできるのは心強い。このあたりは自販機も点在しているし。補給の難所はやはり序盤の阿南まで。ただ、序盤なので、余裕もあるだろうから準備しておけば大丈夫。飯田は大きな町だけど、コース上でゆっくり食事ができるところは少なそうだ。飯田駅より少し先に行ったところにある「まいてい」はオススメ。バイキングなのと、向かいがコンビニなのがよい。

 うーん、思い直しても特に補給で困ることは無かったなあ。もう少し暑ければ水の消費が増えたろう。もともとそのためにハイドレーションバックをメイン給水と考えていた。まったく使わなかったけど。まあ、日本のコースなのでそのあたりはなんとかなる。

 まあ、とってもきついけど、超人にしか走れないようなコースでないことは、僕が証明したw やる気があって、天が道を開けば誰にでもゴールの可能性は準備されている。登りと下りしか無い山岳ルートは、飽きさせる暇もなく次から次へ新しい展開を見せてくれる。ぜひとも皆さんもチャレンジしてほしい。

7-下呂駅2


 さ、次は気楽な自転車旅行をするぞー。
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SR600NihonAlps 第四話 甲州街道

 諏訪神社下社の細い脇道からビーナスラインへの登坂が始まる。とはいっても、とりあえずはチェックポイントの蓼の海公園とやらまで頑張ることになる。しかしまあ、この道はとてもビーナスラインまで通じてるとは思えないほどの細い道で、農作業道路みたいな感じ。ちょうど下校時間だからか、生徒がちらほらと歩いている。そしてキツい。こういうことを書いてしまうと、これから走る人にはネタバレになってつまんないかもしれないと思うことがあるけど、ここは実にキツい。グレーチングの上でスタンディングすると後輪がすべるくらい(まあ、雨降ってるからね)。ここを登下校の道に使っている生徒たちは、さぞ足腰が鍛えられるだろう。ここの坂は、このコース屈指のキツさを誇っているらしい。けど、名前も頂上も無い、ただの坂というのが実に良い。いわゆるワナだ。

 そんな道の先によく整備された広大な公園があるのは不思議。雨が降っているから誰もいないのか、こんな僻地だから誰もいないのか。釣り人が数人、人造池に。あれ、公園が終わっちゃうぞ、というところで振り返るとチェックポイントの看板があった。夜、暗くなってしまうと見つけにくいかもしれない。ところで、僕はこの公園の裏口から入ってきたことに気づいた。道理でほっそい道な訳だ。普通にこの公園にアクセスするには、二車線の立派な県道を通ってくればよいらしい。そしてその二車線はビーナスラインへ向かって続いている。そこを僕は進む。雨に打たれながら。

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 唐突に霧ヶ峰に到着。そういえば初めて来たのかな。ビーナスラインには何度か来たことあるけど、いつも美ヶ原-白樺湖間を走っていて、こちらには来たことがない。うまいことに雨はやんで雲は・・・・・・空を覆うけど、霧などはでていないようだ。地元町内会(別荘でもあるのかね)?の掲示板は三菱電機が提供したもののようで、三菱電機、霧ヶ峰の文字が入っていた。霧ヶ峰のエアコンで温めてくんねえかな、と思うくらいには寒い。美ヶ原との合流付近から雨足が強くなる。レインウェアはジャケットしか羽織っていないけど、まあすぐやむだろう。なんて思ってたら、どんどん降ってきた。寒い寒い。黄昏時+雨天+街灯なんか無し、で路面のインフォメーションはほとんど入ってこない。ライトつけててもブルーグレーの世界にすべてが溶け込んでしまうだけ。車山を見ては寒いと思い、白樺湖を見下ろしては寒いと思う。そうだ、このまま白樺湖のホテルに突入しちゃうってのはどうかな。

 白樺湖のコンビニはまだ営業していたので、とりあえず入る。ここが久々の補給で、ここからしばらくの最後の補給だな、と思うものの、実のところ何かを買う必要も無い。今、手持ちの補給物資だけで100kmは走れるはずで、次の補給地点は100kmも先ではない。雨は降り続いているので、ここでホテルに入って二泊してゴールの案も少しだけ検討してみる。僕のタイムリミットは午前6時で、実はまだ10時間以上残っている。残り距離は100kmくらいだろうか。現在位置は、コースの最高地点に近く、ゴールは1000mも下にある。ということは3時間くらいの休憩はまだ安全圏ではないだろうか。・・・微妙だな。この臭いウェアをもう一度着るのも嫌だしなあ(基本、アウトドアに向いてません)。最後のセクションはよく知らないのだけど、どうも幹線国道らしい。となると深夜に通過しちゃったほうが交通量的には良いかも(あるいは木曽国道みたいに、夜間はトラック暴走道路の可能性もある)。
 悩みどころだけど、胃腸が弱くて回復力に欠ける自分には、ゲームを長引かせるよりここでケリをつけるほうがよさそうだ。5時間半という膨大な睡眠時間のおかげでまったく眠気なんか無いし。

 なんてしっかり考えているようなことを書いたが、ただの思考の遊びで実際に泊まるつもりは無い。雨量レーダーを見る限り、ここで雨は1時間くらい。小淵沢の周辺には雨雲が滞留する予報だけど、今、心配することではない。濡れて風に吹かれている体はガクガク震えているけど、レインウェアを全部着こめばなんとでもなろう。自転車はまだ壊れていないし、壊れるわけもない。ブルベではどんな自転車が向いてるのかって? 悲惨な状況下でも無事に戻って来られることを確信出来る自転車だ。俺には今、この自転車しか無い。だからこの自転車が一番向いてるんだ!

 「戦場まんがシリーズ」の名セリフに酔いながら、大河原峠へ出発。コンビニからしばらく登ったり降りたり。スキー場の向かいにあるホテルが最後の自販機。そこから先は、真っ暗闇。雨のおかげで野生動物の音がほとんどしない。謎の鳥の鳴き声が稀に聞こえるくらい。道はしばらく2車線のよく舗装された道路だが、しまいには1車線になった。もう標高は2000メートル近く、森林限界ってどうなってるんだ? とか思っているとがけ崩れのせいか、視界が開けていところにでた。下方にぼんやりと佐久の市街地が見える。雨にふられているのか、けぶっている明かりだ。左手の奥に見える鉄塔の立つ尾根は美ヶ原? わかんないけど、標高ではありえなくもない。しかし、こんな道を下るのヤだな・・・

 大河原峠の鞍部は大きな駐車場になっていて、車中泊の車が何台も止まっていた。ただ放置されているのかもしれないが、真っ暗なのでうかがい知ることはできない。峠の看板まで草むらを踏み分けて渡り、自転車をたてかけて撮影。さて、次のPCまでは下りだけだぞー。爽快ではなさそうだけど。

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 雨は止んでいたが(降ったりやんだりめんどくせーなー)、ずぶ濡れの林道みたいな道を下っていく。路面にはいろんなものが散らばり、要所要所にグレーチングが。隙間は開いていないよね、と思っていたが、ひとつふたつ、隙間があるものもあったなあ。なんだか宿泊施設っぽいものの看板の下にやけに大きな犬がいて、並走しはじめる。ま、飼い犬だろうし繋がれてるのかフェンスの向こうなのだろう、と思った瞬間気づいた。鹿だ。でかい鹿に並走されてる。くそう、同航戦か。ちょっとヤバイので、大声で怒鳴りつけるが、まったく聞く耳を持たない。というかわざわざ斜め右前から進路にはいってきて、カツカツ蹄の音を立てながら左側の藪に消えていった。すげえな、我関せずって感じだったよ。

 しかし下る下る下りまくるがが全然高度の数字が減らない。ブレーキパッドを交換しておいてよかったよ。ちょっとビビリー入りすぎててブレーキ引きっぱなしになってる。機械式ディスクブレーキってブレーキかけっぱなしでなんか悪いことあるのかな。ベイパーロックは起こらないよな。ワイヤーに熱が伝わってレバーが熱くなるとかあるんだろうか。ないよなあ。

 ところで手のひらが痛い。やたら痛い。なんでだろ、と思ったら、グローブのロングライド用の分厚いジェルパッドが手のひらに食い込んで痛い。参ったね、こりゃ。ブレーキ引きっぱで体重がかかっちゃってるから、どんどん痛いんだね。

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 佐久のPCはただの交通標柱。写真がとても撮りにくく、10枚ほど撮影してなんとか成功。最後の60kmへ突入する。ここは国道141号、幹線国道。まだ深夜というには早い時間ということもあって交通量がそれなりにある。少し走ると久々の「フツーの」コンビニあり、さらに走るとファミレスもあったり。
 しかしまあ、事前の勉強をしてなかったから知らなかったけど、意外と登る。斜度は無いものの前半はずっと登り、後半はずっと下り。いい加減飽きて来たので、さらにコンビニで休憩をとったりする。このまま行けば午前1時〜2時には到着するだろう。当初計画より若干早いくらいだけど、問題はそのあとどうするかなんだよね。小淵沢には夜チェックインできるような宿泊施設は無いし、道の駅の温泉施設は午前10時からしか開かないし。俺、とっても臭いし、その間なにしてるんだって話。そんなわけで速く走るモチベーションが無いわけ。

 小淵沢駅へ、よくこんな道を知ってるなあというルートをつないで走る。午前1時半ごろ、駅へ到着。おとといの夜中にはアナ雪が流れていたカラオケスナックも今は静かだ。写真を撮影し、すこしベンチに座って休む。さてさて、とりあえずもう走らなくていいんだね。

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 ***

次回予告:ちょっとしたおまけと完走後の感想。かんそうだけに。
 

SR600NihonAlps 第三話 野麦街道

 目が覚めると握られたiPhoneの画面には4:30の表示があった。一瞬のことだったが、5時間半ほどたっている。眠れないかもしれないとか言う不安は一体なんだったのか。まあ、前夜に一睡もしてなきゃこんなものか。
 しかしおかしいな。4時15分にもアラームをセットしていたはずだったのだけど。設定ミスか、無意識に消したか。さて、6時発にすれば二度寝もできるけど。まあいい。起きよう。朝飯を食べて着替え片付けをし、再スタートしたのは午前5時半。予定よりは30分ほど早い。天気予報は早朝のみ雨、とのことだったけど、今のところ曇天なれど明るい。これはいけるんじゃね? と早起きな人たちに挨拶する「おはようブルベ運動」を実施しつつ高山市街地を抜けて行く。

 道はずっと登り。じわじわと標高を上げていく。実は高山から乗鞍のゲートまでで1100mほどの上昇量があるのだ。距離はだいたい30km。残り10kmでさらに1000mほど上がる。ワオ。きついんじゃね? とか思っているうちに乗鞍と松本へのそれぞれの道の分岐。一般車両は入れない乗鞍へのアプローチへ進みだすと、パラパラと雨が落ちだす。
「ありゃりゃ」と思う間に、土砂降りへ変わったのでたまらず木陰へ入り自転車を放り出して雨の支度。このあたりはもう、まったく人工物なんか無いのであまやどりなんかできないのだ。
 雨支度をしながら「あー降りだしちゃったよー。これ本降りだよー。ゲート閉鎖だろうなー。まだまだイケるのに、ゲート閉鎖じゃ中止も仕方ないなー」と心で棒読みし、撤退路を検討しつつ更に登る。急に斜度がきつくなった。トレランの人たちとたくさんすれ違う。雨なのによくやるなー。どこから来たんだろう? この人達は。
 ゲートまで意外と遠い。雨はざんざ降り。風がないのは救い。なにしろ前後ディープリムなもんで、強風のダウンヒルはあまり楽しいことにはならない、というか空飛ぶ可能性があってコワイ(以前に煽られてふっとんだ人を見た)。とりあえずゲートまでは行こう。胃腸が弱いので、体力の回復はできてないけど、いつものことだしたった600kmだし、自転車は壊れているわけじゃないし。辞める理由がない。ゲート以外は。ゲート、しまっててくれ!

 ゲートが見える。管理小屋から反射ベストをまとった係の方がでてくる。おっと、これは「ごめんなさいねー。今日は悪天候で閉鎖だよ」か!? 天は俺にも微笑まないのか? さあどうだ。

「気をつけて行ってねー」

 あれ? おや? 通れちゃった? 景色は一面真っ白だよ・・・・・・。まあ、ヤバイほどではないし、雨の割の空も明るいけど・・・・・・。

「有料じゃないんですか?」と尋ねると「無料」とのこと。「天気、好転しますかね?」と聞くと「一日こんなんじゃないかな。降るのは夕方からって言ってたんだけどね」と。ふう。とりあえずゲートは開いてしまった。天は僕を選んでしまった。選ばれたからにゃあ、行かねばなるまい。閉鎖、の声がいつかかるともしれないし、登るか。

 ずっと、白い世界を登った。

 とても、長い時間、登った。

 静かな時間が過ぎた。

 九十九折が続く場面に入ってきた。コレがよく写真で見るところなのかな? とか思っていると、雲・・・足下に広がるのも雲・・・が斜面を駆け上がってきて流れていく。風が急に強くなってきた。雲が流れ、切れ、僕は稜線を越える。

 おお、ゴウランガ・・・。見るがいい・・・ゴウランガ・・・。

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 天が割れて太陽光が燦々と降り注ぐ2700mの峰。もはやすべての車両は我が足下にあり、頭上にひとつの車輪も無い。素晴らしい。我、来たり。そして最高地点まで進むと・・・・・・。

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 やれやれ。

 しかしまあ、寒い。気温はともかく日が隠れてしまって風がビュービュー吹いてて萎える。さっさとここから撤退して、温かい場所へ還ろう。幸いながら、長野側には雨は降っていないようだ。むしろ雲量50%くらいだけど、晴天ぽい。下る下る一気に下る。岐阜側では二人しかサイクリストを見なかったけど、長野側には無数のサイクリストたちが頑張っていた。事故はコワイので丁寧にすすんでいく。不安だった新島々のトンネル群はとりたてて怖いことも無くパス。まだお昼前なので帰路につく車は少ないのだろう。上昇した気温に耐えられないので、レインウェアを脱いで、背嚢へしまう。お昼ごはんはトンネル群が終わってから、どこかで座って食べたいな。

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 水も随分前に無くなっていたが、ゆるい下りのおかげで脚が回っているので気にしていなかったらどんどん気温はあがりご飯を食べる場所もなく、どうしようモードに入る。コンビニや自販機はあるから止まればいいのだけど、せっかくいい調子なのだし、すぐにファミレスなどがあるかもしれないし。いつもの良くないパターンその一だ。ようやく長い赤信号で止まって付近のファミレスが南松本のPCの手前にあることが判明。その交差点まで進み、まずマクドナルドへ。うーん、超満員。これはよくないね、とガストへ。やっぱり超満員。松屋、吉野家もよろしくない。こんなことをしているうちに無為に時間だけが流れ、しかたないのでPCの石碑へ向かう。まだ何かあるだろう?

 何もないのでコンビニでパスタ。気温34度。ピーカン。なんで俺は日向で熱いパスタを食ってるんだろう?

 南松本から次のPCまでは塩尻峠を通過。日中の甲州街道はやはり交通量が厳しい。路肩が大きく取られているところが多いのでそこで耐えて凌ぐ。最近は左側追い越しをかける車がやたら多くて怖い。自動車にも免許制度が導入されればマナーがよくなるのに・・・ってすでにあるのか。機能してないな。ブツブツ。

 諏訪湖のほとりで通過証明としてオブジェを撮影していると雨がぽつりぽつりやってきた。昼間はあんなに晴れてたのにな。雨はまあ、走り出してしまえばなんてことはないし、気がめいるのと臭いだけが問題なのだけど、これから2000メートルの高所まで登り返すのかと思うとうんざりもする。なんというか、このコースって後半の方がキツいよね。日が落ちる前にどこまで行けるかなあ。寒いのやだなあ。ああ、寒くて雨で高所といえば去年のFujiのとか一昨年のカスケイドのワシントンパスとか思い出すなあ。ワシントンパスは泣いた。

 さて、行きますか。まずは諏訪神社へ。

***

次回予告:ついに我々は最後の高地へと突入する。目指すは霧ヶ峰、そしてビーナスライン。最後の2000m級山岳を越え、雨の中の林道を下り続けなくてはならない。カルフィー・ドラゴンフライ・アドベンチャー、お前はこの日のために作られた。最終話「甲州街道」

 

SR600第二話 大平街道

 事前の予定では0時、つまり24時間で330kmほどを走って高山に到着。午前6時に再スタートという予定であった。おや? と思われる人もいるかもしれない。その「おや?」は「ずいぶん休むじゃねえか」というところにつながるのではないか。実にその通り。ときおり「SR600は普段の600kmブルベより楽な気がする」というコメントが聞かれることすらある。いや、実際には楽なことは決して無いけど、意外と休憩時間がとれるのも事実。これは600kmに50時間以上が割り当てられていること、コースのほとんどが山間にあって信号でのロスが無いこと、同時に交通量も少ないので、自動車に悩まされることが無いこと……などが積み重なって意外と速く移動することができるのだ。また、途中のタイムリミットがないのもよい。思い切って休憩しても、最後までに取り返せば良い。
 その結果が6時間の休憩時間であり、睡眠時間も十分に確保できるだろう。確保できなくては困る。何しろ、前夜は一睡もしていないのだから。

 さて、現実の状況を考えてみよう……。実は事前の予定では飯田に到着するのは14時であった。それを2時間前倒ししている。「まいてい」でゆったり昼食をとったり、コンビニをうろついたりして1時間を失ったが、それでも1時間。これから140kmくらいの間にそれが増えるかどうか。このまま進行しても7時間の休憩ができる。朝6時出発でOKというのはざっくりとした計算上のことだけど、それにしてもすごい。ほんとにそんなに休めるんだろうか? そんなことを皮算用している間に、道は大平街道を進んでいる。大平峠に続く登りだ。ここに入ると、木陰のせいもあるが急に涼しくなる。見ればあっという間に雲がかかってしまっていて、気温は25度くらいまで一気に下がってしまっていた。山道だが、しばらくはダム建設のダンプが多く走っている。遠くで雷鳴。うーん、皮算用は皮算用だったかなあ。

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 大休という板碑の前で休憩。だって、「大平峠を行くものが休んだ場所」というのだもの。この道沿いには地名と説明の記された板碑が要所要所に立っていた。地名があるということは、ここは人の暮らしのあった場所なのだろう。GPSに表示される現在の地図では読み取れ無いような細々した地名が、かつての営みを感じさせる。のだけど、現在の現実世界では、まったく人のいない無人の峠だ。後で知ったのだが、50年以上前に集団移住によって無人化したのがこの大平(おおだいら)なのだそうだ。自動車道は、この峠を大きく迂回して設定され、この古い街道を通るものはいなくなってしまったのだという。

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 それでも、こうしてかつての思い出を残すために地名などの板碑を整備しているのだと言うことらしい。ただ、いくらか痛んでしまっているのも見受けられてしまっていた。徒歩客や、我々のような自転車の旅人は、板碑に目を通し心をはせることもあるだろうが、自動車ではまったく見落とすばかりだろう。いつしか失われてしまうのではないかと思うと寂しい気がする。ジオタグ化してVRで表示できるように……。

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 大平峠の前には飯田峠がある。このふたつの峠の間にはちょっとした平地があって、そこに大平宿が。事前に知識が無かったので、その現代とは思えない風景にはっと息をのむ思い。現代に残る宿場町といえば、妻籠や大内宿を思い出すが、観光地化されたそれらよりずっと素朴で侘び寂びをかんじさせる小さな集落。そんな空気の中でくつろいでいる人たちにカメラを向けるのも気がひけたので、そのまま通り過ぎる。雨の虞が無ければ、ここの茶屋で少し休んで行きたかった。
 峠の鞍部は謎のトンネル様の土管?。 下りはくねくねの細い道。しばらく行くと256号線にぶつかってしゅびーっと下ることができる。この下りの途中に蘭(あららぎ)という集落があって、それが近代文芸運動のひとつ、アララギ派の名の由来となったとされている。

 さらに256号線を下りきるあたりにふと古い町並みが。ああ、妻籠宿だ。ここも通るんだな、と気分はすっかり自転車旅行者。妻籠とか下呂とか、自転車抜きでゆったり過ごしたいなあ。

嬬恋


 悪名高き国道19号も、週末の日中とあってなんとか穏当に。そこからみっつほどの大きなうねりを越えると下呂だ。途中で雨が降ってきたのでレインウェアを着込んではいるけど、あまり酷くならないので助かっている。賑やかで明るい下呂の町で日没。下呂から高山までは位山という「暗い山」を行かなくてはならない。始まってしばらくは2車線あるのだけど、やがて細くなり真っ暗になる。コワイ、と思い始めるとどんどん怖くなる(幽霊とか嫌い)のだけど、動物の音はしないので救われている。どうも雨になると野生動物の動きは不活性になるようだ。そういえば、野生動物は濡れると乾かす手段が無いので、できる限り雨に打たれるのを避ける。それが現在の犬猫も水を嫌うことが多いのとつながっている、と聞いたことがある。そうなのかもしれない。
 さらに思うのは、意外とこのコースは「下り殺し」ではないなということ。SR600 Fujiは気持ちよく下れるダウンヒルが多く、タイムを取り戻せるけどNihon Alpsはそうではないという印象があった。それでとても不安に思っていたのだけど、下りが多いセクションで時間を取り戻すことはできている。このままいけば10時頃に高山に到着できる。予定より2時間も早い。そのすべてを休憩に割り当てることもできるが、明日の出発をいくらか早めた方が良いだろう。

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 位山神社の写真をおっかなびっくり撮影。軽トラックが一台行き過ぎたが、向こうも少し驚いたかもしれない。でもまだ午後9時ごろだものなあ。許容範囲だろう。神社から先もしばらく登るが、その後の下りは道もいい。路面も乾いているように見える・・・と鹿が横切った。「シカくんなー!シカどけー!」と叫んで下っていると、コーナーを抜けた先でお祭り? いや、音楽野外フェス? ステージやオブジェが照明に照らされて、大勢の人が。百台くらいの自動車も停められている。こりゃいったいなんだ? と思っていると、それは後方に消え去って行き、再び暗闇の世界に。一体何の集会だったのだろうか。

 高山までは下り基調で、仮眠予定地の手前のコンビニで補給物資を買い込み、ホテルへ入る。やはり午後10時。朝6時発だと8時間もある。まあ、ちょっと早めることにして仮眠5時間ちょっと、その前後1時間を食事と準備などに割り当てよう。5時間って、もはや仮眠ではないな。ただの睡眠だ。
 問題は、すぐに眠りにつけるかどうかだ。去年のFujiでは眠ることができず、ベッドで悶々としていた。他にも寝付けなかったことは多々ある。繊細なんだよね、結局。ああ、眠れなかったらどうしよう。昨晩も寝てないんだぜ・・・。



次回:天に選ばれし者だけが登ることができるというノリクラ。不意な土砂降り。気温の低下。濡れ鼠になった絶望的な状況のトレラングループとすれ違う。それでも進むのか……このどこまでも続くノリクラ坂をよ……。開くか開かぬか確率は丁半ばくち。ゲートキーパーの下した審判は? 刮目して待て!

SR600第一話 秋葉街道

 まずはじめにスタート地点であり、当然ゴール地点でもある小淵沢について触れておきたい。もう少し正確に書くと、小淵沢の駅と、その周辺の事情についてである。というのも、ここはまったくの小集落であり「駅前だから栄えているだろう」というような期待はまったくできない場所だからだ。まず、駅前には取り立てて述べるようなものは何もない。コンビニなどを期待してはいけない。夜中ともなれば、スナックが一件、営業しているかどうかの静かな場所となる。もしスタート前に何か必要なものをコンビニで入手したければ、高速道路のインターチェンジに向かって進むと坂を登ったところに2件ほど存在する。なお、インターチェンジ付近にも特筆すべきものは何も無いようだった。


 前泊、後泊のための宿泊施設は極めて少ない。
 旅籠屋が至近にあるようだが、深夜のチェックインには対応していない。ビジネスホテルは塩尻か甲府の方へ出ないと無いと思っていい。唯一の救いは、インターチェンジの方へ登ったさらに先にある「道の駅小淵沢」である。ここには休憩部屋のある温泉施設が併設されており、10:00~24:00まで営業しているのである。
 ということで、夕方くらいに到着し夕食と休憩を数時間とって風呂に入って着替え、12時のスタートへ移動するという考えで金曜日を迎えた。そして、結局眠ることはできなかった・・・。以前に健康ランドで仮眠を取ろうとしてことごとく失敗していたのを、むざむざと繰り返してしまった。睡眠導入剤まで利用したものの、ざわざわとした休憩室の雰囲気とノイズで目をつむり続けるだけで精一杯。ちょっと諦めて、先に夕ごはんを食堂でとることにした。メニューはヒレカツ定食。ヒレで勝つという縁起物。

 その後、もう一度休憩室に戻るもテレビの音もうるさくどうにもならない。もう高校野球と雨災害の話題は十分だよ・・・。って、今、天気予報で何て言った? 明日も雨? 明後日も不順? おかしいな、昨日までの天気予報では週末はぎりぎり持ちそうだったのに。ああ、どうなるんだこれ。別に走らなくてもいいんじゃないか? 高原で涼んで帰ろうよ。しっかし、テレビの音うるさいなあ・・・。
 結局、一睡もできないまま起き上がり、お風呂を浴びて着替えざるをえなくなってしまった。なんという失態。しかたがないので、ずっと目をつむって体を横たえていたストレスフルな経験を「寝てた」という捏造の記憶へ書き換える努力をする。
 そうだ、あれはよく寝たよな。ちょっと眠りが浅いだけで、俺はよく寝たんだ・・・。

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 小淵沢駅の夜は早い。駅の脇のスナックからアナ雪の歌声が聞こえてくる意外はどこまでも静かだ。少し早くついてしまったので駅舎のベンチで座り目を瞑る。うーん、こっちのほうが良く眠れそうだ。といっても深夜も通過列車があったり特別列車があるようだった。
 さて、自転車を時計の下に立てかけ、シャッターを切る。うとうとしていて少し時間が過ぎてしまっていた。まあ、54時間の制限時間からすれば微々たるもの。さあ、行きますか。

 小淵沢駅から甲州街道までは下り基調。その後は富士見峠までゆるゆると登るがほとんど負担は無い。ここを走ったのは、もう5年くらい前の糸魚川ファストラン以来だろうか。走行する時間帯はまったく違ってしまっているが、道の流れや雰囲気に少し懐かしい思いが蘇ってくる。そういうノスタルジックな思いで、不安な心を少しでも慰安しようとしているのに視界の左上のほうに不穏なものがチラホラしている。
 チラホラというか、チカチカ。
 遠雷。
 山陰が浮き上がるように遠くの稲妻が夜空の雲を白く輝かせているのだ。
 げんなり・・・。

 諏訪湖の手前、茅野から道を左に折れて登りに入る。その直前にコンビニがあるので水とミニあんぱんを購入。水はボトルに詰めて、ミニあんぱんはハンドルに取り付けた小さな筒型バッグに収める。これから秋葉街道の行程を記していくのだけど、その前に補給食や水について記しておきたいと思う。
 まず、水はロングボトル一本と、背嚢に搭載したハイドレーションバッグに入れることにしていた。この季節に背嚢は暑いだけという意見もあるけど、そこを氷を詰めたハイドレーションバッグによって強制冷却システムとなし、欠点を逆手に取っていこうという作戦である。でもまあ、この時間は暑いどころか肌寒いので予備であるはずのボトルに水を入れた。というか、結果から先に言ってしまうと、ハイドレーションバッグに水は一滴も入ることはなかった。ただのデッドウェイトで終わったのである。
 補給食については羊羹やエナジージェルなどを約1000kcal分ほど自転車と背嚢に積み込んでいた。背嚢というのはモンベルのトレラン用のもので、容量は7lとされている。自転車用でもっと大容量のものはいくつもあるが、大きなバッグは「せっかく入るのなら、もっと入れよう!」という気持ちになってしまうので良くない。このくらいがちょうどいいのだ。

 杖突峠へ向かう街灯も無い道を静かに登っていく。静か・・・・・・なようでいて、静かではない。というか、ガサガサッと所々から音がする。コワイ! 稀にトラックなどが行き過ぎると「暗闇の中にいるやつらめ! ここは文明の支配領域だぞ」と心強くなるほどだ。
 稀に小動物が横切る。これが熊だったらどうしようとか考える。熊に出会った時は一目散に逃げてはダメだそうだ。ゆっくりと対峙したまま後ずさり、距離を取れという。すぐ振り返って逃げようとすると熊はとんでもない速さでたちまち追い付くとらしい。でも自転車で、しかも登りだぞ? どうやって後ずさるんだ? うーん。時々気まぐれに「チンチン」とベルを鳴らしてみるが、藪の中の物音はかえって増えたりする。むしろ「ウォー!」「くんなー!」とか怒鳴ったほうが効果があるようだ。もっとも、その物音をたてていた者達の正体はわからない。小動物か、鹿か、クマか、それとも深淵から来たるものたちか。

 杖突峠も十分な峠である。もう、十分な気がするほど。怖さは十二分だ。真っ暗な中、ゴルフ場の入り口で自転車を道路に倒して防寒のためにゴアジャケットを着こむことにする。灯りは無い。甲高い謎の鳴き声がする。鹿だと思いたい。黙れ黙れと怒鳴る。相変わらず、空は稲光でフラッシュしている。雨は降るのか。いつ降るのか。もうやめたい。やめればいいんだ。でも、戻って富士見峠を反対側から登り返すのは嫌だなあ。

 高遠の街の入口で雨がやむ。ゴアジャケットを脱いでしまう。天候が不安定だと、このレインウェアを着る・脱ぐ、の繰り返しが時間を食う。しかもどんどん臭くなるし。濡れたまま耐える、というのも手だ。けれども長丁場にあってもし回復不能なほどに体を冷やしてしまうことになってはどうしようもない。雨中のライドは本当に嫌なものだけど、レインウェアをしっかりすればストレスはかなり軽減されるし、継続不能に陥る可能性を減らすことにつながる。

 そういえば、高遠の手前の下り坂にやけにリアルな警官のカカシがあった。交通警告の一種だと思うけど。あれはカカシだったよな。たぶん、人間ではなかった。人間のように見えたが、いや、違う。あれは人形だった。

 さて、この調子で書いているといつまでたっても終わらない気がしてきた。まだ始まったばかりだけど端折っていくことにする。
 次の峠は分杭峠。PC1に指定されている。これもやっぱり暗い。もう真っ暗。現代生活において、真の暗さというのはなかなか触れることはない。もし、ここでダイナモかライトが壊れたら進退窮まる。一歩も踏み出すこともできない。まぶたが開いているかどうかもわからない。そういう類の闇だ。
 でも、確実に何かが居る気配がある。何かがうごめく音もする。
 泣きたい。
 戻りたいけど、もうここまで来ちゃったしというコンコルドの誤謬状態。
 その悲惨な状況は大鹿の集落へ向かう間にようやく改善を迎えようとしていた。
 朝が来たのだ。

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 長いダウンヒルを終えて大鹿の集落に入った。朝焼けを見ながら、観光案内所らしき建物のトイレを使わせていただく。ここは綺麗で、ウォシュレットもあるのでもしものビバークにも使えそうだが、まだこの時点でそのような緊急事態になることはないだろう。あ、でも蚊がいた。
 ここで空を見上げると朝焼けが美しい。けれども、美しく赤く染まった朝焼けって、天候悪化を意味していると聞いたことがある。まあいい。飯田あたりで判断すればいいことだ。

 しらびそ高原への上りは、さきほどの分杭峠への道に比べればずいぶんと緩い。緩いが長い。雨は弱いが降ったりやんだり。車は滅多に通らない。そのせいか落石と落ち葉や落ち枝が散乱していてちょっと気を使う。
 そして、なによりも1900m弱もある秘境の峠道なのだ。高山までの前半戦での最高箇所。これを登りきれば、この一日ではこれより高い山は無い。
 もっとも、明日は二つもある。2700mの乗鞍と2000mの大河原峠。そう思えば、やっぱり高山までで終えてもいい気がする。もう無理だよ、という心の声が聞こえる。天気予報的にはこれからずっと雨だ。飯田はお昼からずっと、下呂、高山は夕方から雨。峠を繰り返すSR600で雨はきっつい。それだったら、飯田で輪行するのが一番安全楽チンだし、ずっと楽しみにしていた秋葉街道を旅することができたということでいいじゃないか。たしかに高山に着替えを送ってしまっているホテルのキャンセルなどをするのも面倒だが。

 なんとかしらびそ高原に登りきり、標高1900m弱の展望所から外界を見下ろす。この労苦、艱難辛苦、それに見合う・・・


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 何も見えねーよ!

 これじゃ標高0メートルでも同じだ。登った甲斐もなし。とぼとぼと進むと、しらびそハイランドという宿泊施設がある。日中はレストランなども開いていて、補給困難区間におけるエイドポイントになっている。しかし、まだ時間は朝早く、とても開いているとは思えない。まだ背嚢にアンドーナツが入っているはずだから、それを食べてしのごう。雨も強まってきたから、レインパンツやシューズカバーも。
 次は日本三大秘境のひとつとして知られる下栗の里なのだが、そこまでの下りは全コース中でもっとも気をつけ無くてはならないレベル。落石と落ち葉が道を埋めているだけではなく、斜度がかなり急でコーナーはキツイ。これではちょっと気を抜いただけでガードレールに突っ込んでしまうというのもわかる。しかも雨だし。

 だが、天は見放してはいなかった。下栗の里がチラホラ見えてくると、雨はあがり霧は晴れて、わずかながら青空も見えるではないか。これが積み重ねたカルマの力なのか。ああ、下栗の里は本当にあったんだ。

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 下栗の里からの件もしばらく険しい。やがて幹線道路と合流したところで、もういいだろうとレインウェアを脱いだ。万国旗を掲げてお祭りの準備をしている町を抜け、コースの進路は南下をやめる。天竜川付近のいくつかの小さなアップダウンをこなし阿南町役場前へ着。水が無くなっていたので、役場の向かいの農協にあった自販機でコーラと水を買おうとするが、大きな札と200円しかなく、コーラは断念。そろそろ昼食にしないとマズイのだが、飯田までそう遠くはないのでそこまで行くことにする。飯田の駅前には何かしら食うところがあるはずだ。

 さて、杖突峠の登り口から、阿南町役場をこえてしばらく行ったところまでコンビニは一件も無い。集落の小さな商店か、観光案内所みたいな施設でしか補給はできないと思っておいた方がいい。日中なら何とかなりそうだけど、夜間だったり早朝だったりすると、まったく何も手に入らない。そして結局、その区間を無補給で走ることになってしまった。そしてふと気づく。もしかして、天候が微妙なせいで助かっているのではないかと。気温が低く抑えられていて、太陽もほとんど顔を出してこないので、水があまり減らない(コレはもっと飲むべきだった)。背嚢を背負っていても、放熱に困ることもない。飯田に近づくにつれ、天気が好転し気温も30度を超えるようになってきたものの、ここまでの200kmを12時間くらいで走ってこれているのは、想定外のペースだ。これは(高山までなら)イける?

 飯田駅で座って食べようと思ったものの、ファストフードやファミレスなど気軽に入れる店がない。ラーメン屋とか焼肉屋くらいしかないようだ。ちゃんと調べておけばよかったな、とうろうろする。検索すると、飯田駅の先に「まいてい」というファミレスっぽいお店があるらしい。しかも向かいがコンビニなので、食べてから冷たい水や氷などを補充できる。さっそく電話して営業していることを確認し、お店へ向かう。
「まいてい」はいわゆるファミレスではなかったが、気軽に入れるこじゃれなレストラン。メインの一品を選ぶと、あとはなんと「バイキング方式」。なんというありがたさ。ソフトドリンクも飲み放題。ガブガブ飲んで、ガツガツ食った。うまいうまいありがたい。

 結局、飯田駅では1時間ほど費やしてしまった。ちょっとペースが上がると調子に乗って無駄なことをし始めるのはよくないな。そういえば、このあたりはずっと雨だったはずなのに問題ないぞ。日頃の行いで積んだ功徳というのは、試練に直面したときに効果を発揮するものなのだな。


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次回予告「活気あふれる下呂の街とは何だったのか。暗闇の峠を登りながら思う。野生動物の襲来。深夜の山岳音楽フェス。誰からも忘れ去られた山上の宿場町。謎が謎を呼ぶSR600、前半戦が終了する」
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